駆けまくれ!



ばたばたとなりふり構わず走る。
早く早く!早くしないと捕まっちゃう!

「まって、みなこ」
「やだ!」

同じようにばたばたと追っかけてくるのは、幼馴染みのルカくん。
ルカくんが本気出せば私なんてあっという間に捕まえられちゃうはずなのに、わざと速度を落として追っかける。
ひどい、意地悪だ!
いつもは走っちゃいけません、と言うはずの廊下を全力疾走して階段を降りる。
上履きのまま校舎を出て中庭へ。
通りすぎる人たちが何事かと振り返っていくけど、構っていられなかった。

「な、何で追っかけてくるのー!」
「だって、みなこが逃げるから」

はあはあと息を切らしながら走る私と、余裕たっぷりでポケットに手を入れたまま走るルカくん。

「みなここそ、何で逃げるの?」
「る、るかくんが、追っかけてくるからっ」

堂々巡りのやりとり。
だけどこのままずっと続くわけもなく、屋上から廊下、階段、中庭を抜けて体育館裏までやって来たところで力尽きた。
吐く息もぜえぜえと煩い。数段しかないコンクリートの階段に座り込んだ途端、追い付いたルカくんが背中をさすってくれた。

「だいじょーぶ?」
「ぜ、ぜんぜん…」

喉がカラカラでヒリついて痛い。息が整うまで背中を撫でてくれていた大きな手に安心していたら、不意にルカくんが動いた。

「コンクリート、固いでしょ。俺の膝にお座り」
「きゃっ」

ひょい、と抱えあげられて膝に座らされる。両手で囲うように抱き締めると、ふにゃりと笑う。
汗一つかかないで、息も全く乱れていないルカくんと、額に汗をかいて未だ喉が痛い私。本当に追いかけっこをしてきたのかと思うほど不自然な二人。

「捕まえた」
「…あっもう!」
「へへ、柔らかい」

本当にもう!
甘えながら頭を擦り寄せて囁く姿は、金の毛の大型ワンコさながら。逃げたら追っかけてくるところもそっくり。
あーあ、捕まっちゃった。…それよりも、何で逃げてたんだっけ?

「それじゃ、食後のデザートもう一回」
「!!」

ちゅ、と頬っぺたにキスされる。
そうだった。屋上でご飯を食べ終わったら、ルカくんがそう言って顔を近づけてきたから、ビックリして逃げたんだった。
ああ、恥ずかしくて逃げ出したのに、結局捕まっちゃったら意味ないよ。お弁当箱もそのまんまだし、きっとみんなビックリしたよね?
それなのにルカくんったら飄々として、楽しそう。一度頬っぺたから唇を離したかと思ったら、今度ははむっと食まれた。

「なっ?!」

あむあむと本当に食べてるみたいに口を動かすルカくん。身を引こうにも抱っこされてるままだとなす術もない。

「みなこ、甘い」
「もう、そんなわけないでしょ」
「みなこ、食べ、たい…」

そのまま背中を体育館の壁に、頭を私の肩に預けて、ルカくんは眠ってしまった。抱っこしたまま寝るなんて器用だなあ。
すうすうと耳元で聞こえる規則正しい寝息を聞いていると、なんだか私も眠くなってきてしまう。ご飯を食べてすぐに全力疾走をしたせいか、どっと疲れと眠気がきてしまったみたい。
誘われるようにルカくんに凭れて目を瞑る。すぐに意識は引っ張り落とされて、そのまますっかり寝入ってしまった。

「…ホントに寝てる。なんか、フクザツ」

苦笑混じりで呟いたルカくんの言葉は、夢の中にいた私には全く届いていなかった。




「ね、まって」
「いーやー!」

今度はWestBeachの前にある海岸で。
ハニーシロップを持ったまま追っかけてくるルカくんから逃げる私。
デザートにはこれをかけないといけないよね、と半ば本気で迫ってきたルカくんと必死の死闘を繰り広げていたら、コウくんに追い出されてしまった。
喧嘩なら外でやれって言われたけど、これってどうみてもルカくんが悪いよね?!
結局捕まってしまうことは分かりきってるけど、逃げずにはいられないとある青春の一日。




100829

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