無垢な乙女に制裁を・敗北



慎重に、美味しそうにたこ焼きを口に運ぶ姿は、小動物のようだ。
もぐもぐとリスのように頬を動かす彼女をじっと見つめる。
ショッピングモールのフードコートにて、俺とみなこはジャンクフードを食していた。
こんな安物一つで彼女は俺に笑顔をくれる。何て安上がりな、と思う反面、そんな彼女がたまらなく愛おしい。

「うまいか」
「ん、…はい!」

咀嚼したのちに飲み込む。
一緒に買ったオレンジジュースをストローで吸い上げる。
細い喉がこくこくと動く様は少し扇情的で、何も口に含んでいないのにごくりと喉が鳴った。食事をする姿というのは性的感情を煽られるというが、なるほどその通りだと思う。
こんなところで欲情したなんて知ったら、彼女は俺を嫌うだろうか。
そもそも、俺がそんなことを考えるだなんて思いもしていないかもしれない。彼女はいつも、俺を男だと思っていないような行動を取る。ベタベタと人の気も知らず、無遠慮にまとわりつく彼女は、残酷なほど無垢だ。
いつだったか、ともに外出をした日の帰り道、あまりにも触れてくるものだから、思わずやり返しそうになったことがある。必死で抑えた結果かなり息の荒い言い様になってしまったが、彼女が懲りた様子はない。
楽観的すぎるのか、物覚えが悪いのか。どの道性質が悪い。

「…先輩、全然食べてないですね」
「あ、ああ…熱いからな」

じっと観察していた所為だとは口が裂けても言えない。
するとみなこが俺の皿から一つたこ焼きを爪楊枝で刺すと、ふうふうと息を吹きかけた。
…お前、まさか。

「はい、どうぞ!」

ずい、とたこ焼きを差し出される。
これはあれか、俗に言う「はい、あーん」というやつか。…どうぞ、と言われたが。
しかし、差し出し方がおかしい。
タコの方を俺に向けるのではなく、彼女は爪楊枝の下の方を持ってその部分を差し出している。ああ、そうか。自分で食えというのか。
食べさせられると思った時はこんな公衆面前でなんて恥ずかしい奴だと思ったのに、そうじゃないと分かった途端落胆している自分が惨めで仕方がない。
こいつ、ことごとく俺を馬鹿にする気なのか。
なかなか受け取らない俺の様子を不思議に思ったのか、「聖司先輩?」と不安そうに顔を覗き込んでくる彼女に、なんとなく悪戯心が疼く。ひと泡吹かせてやろうと、俺は爪楊枝を持ったままの彼女の手を掴んで引き寄せた。そのまま口元へと運ぶ。

「な、せ、せせせ!!」

動揺している彼女の目をじっと見つつ、たこ焼きに食らいつく。手は掴んだまま噛み砕いて飲み込み、ぺろりとわざと舌で唇を舐める。
途端に、爆発したかのように彼女の顔が赤くなった。

「ん、まあまあだな」
「も、もう…!!」

手を離すと逃げるようにその手をかばう。
これで少しは俺の気持ちを思い知ればいいんだ。にやりと笑ってやると、みなこは小さく唸ってからオレンジジュースを飲み干した。




…思い知ったと、思ったのに。
結局彼女はいつも通り。何事もなかったかのようにベタベタベタベタとくっつきまくって、俺はまた無駄に我慢を強いられていた。
本当、いつか覚えてろよ。




100822

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