東堂さんとロードはちょっと仲が良すぎるだけです
「リドレー、何やってるんだ?」

学校で出された課題がひと段落して、集中していた意識が浮上すると、真っ先にベッドの上に目をやった。そこがリドレーの定位置になっているからだ。
簡素な寮のベッドに体育座りでくつろぐリドレーの手には暇つぶしの本がある。

「何の本だ?」
「……」
「…………また国語辞典か」

リドレーが無口なのは、今でこそ性格な面が大半を占めると分かっているが、あまり難しい言葉や日本語特有の遠回しな比喩が得意でないというのもある。そう思って最初に買い与えたのは幼児向けの絵本だった。
段階を踏んで教えていけば良い、そう思っていたのにどうしたことか、リドレーはいつの間にか本棚の肥やしになっていた国語辞典を引っ張り出し、お気に入りとして読むようになっていた。
リドレーは俺の質問に答えるようにその分厚い表紙を見せ、読む?と無言で首をかしげ言ってきたが、正直何が面白いのか分からない俺は頬を引きつらすことしかできない。

「あー……、いや、それは、……そうだな、また今度にしよう」
「……」
「ああ、それよりお前に渡すものがあったんだ」
「?」
「やっぱり今日連れてきて良かった。おいで、リドレー」

部活終了間際に降った激しい雨は、しばらくするとやはり止んでいったのだが本当に丁度良かった。
膝の上を軽く叩きながら呼ぶと、すっとうしろ向きに俺の足の間におさまったリドレーの髪を優しく梳く。

「ああ、こら、動くな」
「……」
「もうちょっとだ。……ほら、できた」

髪をいじられるのは慣れてないせいか、ソワソワと動いて抗議するのをいなしながら、ゆっくりと結い上げる。そこで使う髪ゴムは、この間の休日、外出した先でカチューシャを買った時同じく購入したものだ。黒いものは俺も持っているが、リドレーには白だと思ったのでわざわざ新しいものを買った。
こうして他人の髪を結ぶのは初めてだったが、なかなか上手くできているように思う。流石俺。

「髪をあげると、なかなか涼しいだろ」
「……」
「『装飾品』? まあ、それもあながち間違いじゃないが、髪ゴムって言う方が分かりやすいな」

不思議そうに髪を触るリドレーは思い当たったように、放置していた国語辞典を開き『装飾品』の単語を指した。そんな仰々しいものじゃない。国語辞典のせいで難しい言葉ばかり使いだすリドレーには困ったものだが、それでも少し、微笑ましくなる。
そう思っていると突然ぬっとリドレーの手が頭に伸びてきた。

「おっ、……な、なんだリドレー、ちょ、危ないぞ」

頭に伸びる手を思わず避けると、諦めきれないのかもっと手が伸びてきた。一度避けてしまったためか、そのまま避けようと体が反応するたび、リドレーも負けじと対抗してくる。
最初はうしろ向きで座り体をこちらに捻っていただけのはずが、今は完全に正面を向いているリドレー。しかも夢中になりすぎているのかぐいぐいとこちらに体重をかけてくるので、リドレーが足の間に座ったままの無理な体勢ではバランスがとれず、男として悔しいことに背中から倒れてしまった。
勿論俺に体重全てを預けてたリドレーも一緒に。

「……だから危ないと言っただろう」

俺の胸の上できょとんとした顔をするリドレーに悔しさを誤魔化すようにデコピンをする。それにちょっとびっくりしたような顔で額を抑えたリドレーは、それでも思い出したのか俺の頭に手を伸ばした。一体何なんだと思いつつ、もう抵抗はしない。
するりと頭からカチューシャを抜かれる感覚。

「なんだ、カチューシャか。前教えたことなかったか?」
「……」
「リドレー……」

静かに首を横に振るリドレーはカチューシャという物自体は知っているということを言っていた。そう言われて思い当たる。

私も、これが良い。

そう、声なき音で言っているのだと。大切な相棒にそう言われ、酷く可愛らしい気持ちに襲われるた俺はつけてやろうとゆっくりとリドレーの頭に手を回し、先ほど結った髪をほどこうとした。その時。

「なあ、尽八。この課題なんだけど――――」
「あ」
「……」





■東堂さんとリドレーは仲が良すぎるだけなんです
寝ている男の上に女がいて、女は男の髪をほどいていて、男は女の頭に手を回している状態。


prev next

bkm
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -