「荒北のばかああああああ!!」
部活が終わってしばらく経った頃。自主練するにも遅いこの時間にはもう大抵の人間が切り上げていて、僅かに残っていたレギュラー陣は突然響いた罵倒に最早慣れてしまったかのように誰も反応することはなかった。
「うっせ! 悪かったって言ってんだろ!」
「ほらここ! 傷! お前が毎度毎度乱暴な走りするから!」
「……悪かったヨ」
「そのめんどくさそうな顔! ひどい!」
騒がしい声の原因は分かっていた。時代遅れの元ヤン(他称)こと荒北とその荒北のロードであるビアンキだ。
「またか……」
「正反対だよなあ、あの二人。まあ尽八のも正反対だけどな」
「俺のは相性ばっちりだぞ! ……ビアンキは元はフクのだからな、勝手が違うのだろう」
「いや、俺より荒北は上手くやっている」
そうか……? 思わず新開と東堂は首を傾けた。
福富から荒北へロードが譲られた時、ビアンキは既に人型化できる状態だったにも関わらず、荒北の前に姿を表すのに半年以上はかかった。
何の意地かは分からないが、たまに福富に「俺のことが嫌いになったのお……」と泣きつきながら愚痴をこぼすが、荒北の前ではただのロードとしてあった。
そうして一年経つかと思った時、荒北が珍しく部室に転がり込み「福ちゃんなにコレェ!」「前々から思ってたけどライティングが荒すぎ!」と各々に叫びながらビアンキ(人型)を引きずってきた時、やっとかという気持ちとこれまた珍しいコンビができたものだと皆が感じた。
そんな疑問に首を捻る二人を見て、福富は荒北とビアンキを見やった。つられて同じ方向に視線を向けた新開と東堂。そうしてしばらく眺めていればああ、なるほど、と思わず笑いがこぼれた。
ロードは繊細なのだ。毎回きちんと手入れをしてやらないとすぐにボロがでる。そんな繊細なものを大切にしてない人間が、ロードと通じる合えるわけがない。
だから、ほら、俺たちがあんなに優しい手付きで触れるものが他にあるだろうか。
「治してやるっての」
「当たり前だよばか! ロードは繊細なんだからな!」
「ハイハイ。ったく…………」
「…………そんな面倒な顔するなら他のロードにすれば」
「……」
「……」
「……」
「……荒北のそゆとこ好きよ」
「っせ」
あんなに仲良いコンビが上手くいってないはずがないのか。
■はた迷惑な凹凸コンビなこと。
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bkm