「……京介、近くないか」
「近くない」
「近いわ」
「近くない」

ぐぐぐぐぐぐっ
物理的に距離が近い京介を離そうと掌で押しやると、負けじと京介がその掌に対抗してきた。暫くお互いを押し込もうと戦うが、体格の良い京介に負けそうになったので諦めた。このソファーの大きさにしては絶対に近いと思うんだが、鬱陶しくないのか。
家のソファーの真正面に位置するテレビには、こってこてのアクション映画が流れていた。こんな映画なんて見なくても、三門市にはもっと身近に非日常がある。でもこの新作の映画はレンタルショップで残り一つの人気作だった。皮肉を感じる。俺よりもっと非日常が身近にある京介にとっては、退屈な映画なんじゃないだろうか。いや、身近にある非日常は最早日常か。

休日の日曜。突然やってきた京介をなんとなく迎え入れたものの、特にすることもなく、ゆっくりと時間が流れていく。

「あー……京介って、その、俺のこと好きなの」

テレビの中の建物に仕掛けられた爆弾で、辺り一面がふっとぶ。大きい爆発音と共に画面が煙で覆われる。主人公とヒロインがどうなったのか、思わず手に汗を握るシーン。

「な、なーんちゃって」
「たぶん」
「そうなの?!?!」

建物が倒壊する、色気も何もあったもんじゃない音が部屋に響いた。
そんな中、煙の中から二人の人影が出てくる。きっと主人公とヒロインだ。エンディングロールはもう近い。
けれど俺の目はテレビから離れて、この先の二人を見守ることができない。まるで何事もなかったような、相変わらず疲れも照れも見せない澄ました顔が、すぐ横にあった。けれどその頬が妙に引きつってるような、気が、して。

「きょうすけ」

気が付いたら京介の頬に手を伸ばしていた。指先が触れた瞬間、俺も京介も驚いたように目を見開いて身を引いた。
完全に無意識だった。離れた指と顔の距離が、らしくないほど、冷たい。

「京介、」
「……」
「えっ……と、それは、俺を抱きたいとか、……抱かれたいとか、そういう……」

無事にエンディングを迎えたのか、沈黙の代わりに、アクション映画らしい激しい洋楽が流れ始めた。相変わらず背景の音と雰囲気があっていない。少しの間を持って、京介がゆっくりと首を振った。

「――いや、そこまで考えたことはない」

「そうなのかよ!! 俺今すごい恥ずかしい質問した!」

ふりしぼった質問を冷静に返されて力が抜けた。がくっと身体をソファーの背に預けて、長いため息を吐いた。

「あー……めっちゃ恥ずかしい……! 今のなしな!はっず!」
「……」

顔を掌で覆って、恥ずかしさを誤魔化そうとする。のに、京介がその手を掴んで、引きはがそうとしてきた。悪趣味め。面白がってるな……。暫く放っておいてくれ、そう言った傍から、強く手を引かれ、顔を隠し続けることを阻まれた。

「ちょ、なに……」

明るくなった視界。手を取られた先で、何かに耐えるかのように、京介の端正な顔に力が入った。かと思えば、それでも尚、幸せそうに薄っすらと笑みを描いた。綺麗だった。息を呑んで見惚れていると、京介に捕まえられたままだった手を、今度はしっかりつなぎ直される。指先と指先を絡めて、まるで恋人同士みたいに。突然の感触に、ビクリと指先が跳ねると、それを押し込めるようにきゅっと力を入れられた。俺が近づいたのか、京介が近づいたのか。コツリとおでこ同士が重なった。京介の部屋で良く嗅ぐ匂いと、生暖かい空気が肌の上を滑った。それは逆にも言えることで、京介の顔に俺の息がかかるのかと思うと、恥ずかしすぎて呼吸を止めてしまった。

「……でも、こういうことは、したい」

「…………」


純情ぶりやがって



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