「今日あっついなー」
「今年一番の猛暑だって」
「それあと何回聞くんだろうな」

真夏の体育は地獄だ。けれどむわむわした教室でずっと机に向かってるのも地獄に等しい。水道の蛇口を思いっきり捻り、頭を突っ込むと、水に冷やされて随分気持ちが良かった。汗が流れてべついた肌もすっきりする。ポタリポタリと水が落ちる髪をかきあげると、一足遅れで同じことをしていた常幸も水道から顔をあげた。いつも後頭部にたっているツノがぺしゃんと凹んでいる。

「今日はそれでお前の寝癖なおるんじゃねーの」
「まさか」
「まじかよ。どんだけ頑固な寝癖だよ」

よけいなお世話だとわざとらしく小突かれたので、大袈裟に痛いふりをした。そんな風にじゃれあっていると、遠くから大声で俺と常幸の名前が呼ばれる。

「次数学だぞ」
「やっべ」

先に教室に戻っていた京介と充が、もう制服に着替え終わっていた。思ったよりも進んでいた時間に慌てて駆け出すと、せっかく引いた熱がまた沸き立つ。夏は地獄だ。わざわざ声をかけに来てくれた二人に、軽くお礼を伝えると、だろうと思ったなんて辛辣な返事が返ってきた。その言葉への言いたい文句はあとにして、常幸と全力で更衣室へ走る。数学の先生はうるさいのだ。





「……なまえ」
「なんだよ」
「ボタン開けすぎだ。だらしない、もう少し閉めろ」
「え〜〜、京介、お前俺の母ちゃんかよ」

肩すくめてみせると京介の眉が僅かに寄った。指を刺された襟元を、素知らぬふりで掴んでぱたぱたと仰ぐと、少しだが空気が入って涼しいような気がする。その分腕が動いてるのでお相子かもしれないが、気分の問題だ、気分の。

「なまえ」
「んー……」
「――跡、見えるぞ」
「なんの跡だよ?!」

妙に声を低く、首元を指先でとんとんと刺す京介に、周囲が一気にざわついた。

「いやなんの跡だよ?!?!」

別になんの跡もなかった。




むっすーとした顔をして、きっちり襟元まで閉めたシャツを着た俺の前に、京介が座った。いかにも不機嫌ですアピールをしてる俺を見て、薄く笑う。それだけで絵になるからイケメンは……、イケメンは余裕があっていいな。

京介はここ最近、先ほどみたいなわざとらしいことをするようになった。少し声を落として、普段とは違う笑い方をして。少し色気を含んだような。

「……お前、ああいうのやめろよな」
「ああいうの?」
「……」

面白がってるだけだと思うのに、こういう時だけ、本当かどうかよく分からなくなる時がある。俺の机の上に置いてあった下敷きを手にした京介は、自分の弟や妹をなだめるような優しい顔をして言った。

「そんなに怒るなよ。ほら、俺が仰いでやるから」
「……あー……くそ、気持ちいー……」


君に恋をした



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