京介はボーダー隊員だ。俺たち三門市民を守るヒーロー。それでいて、学生でもある。考慮はされても、なくなりはしない。日中ボーダーにいる時を除いて、普通の生徒と同じく勉強をして、遊んで、決められた係りをやる。面倒な学校行事だってなくなっちゃくれない。他のボーダー隊員も同じだとは分かってはいるが、もうこれだけで只の16歳の男子高校生としては十分な気がする。同じクラスのとっきー……充だってそうだ。広報だのなんだの、仕事のしすぎである。俺がお気楽な一般庶民をやってるから、そう思うのだろうけれど。
更に京介は、ボーダーと学生、とは別に優秀なアルバイト生でもある。コンビニだったり、喫茶店であったり、それは様々だ。暇を見つけてはアルバイトに精を出し、金を稼ぐ。その理由が、学生らしい遊ぶ金欲しさならまだ良いが、家計の足しになんて、なんとも健気なものであるからしょうがない。聞いた当初は思わず脱力してしまった。

――ここで話は京介がモテるという話に戻る。友人である俺は、よくお前はモテて羨ましい、なんて愚痴を零すが、それがその実、そこまで嫉妬しているわけではない。モテるというのは案外、苦労するものなんだと知っているからだ。

「烏丸くん、今日暇?」
「あのね、ここ教えてくれないかな……?」
「ボーダーしてるのにバイトしてるの?」
「大変だね」
「でもさ、たまにはパッと遊ぼうよ!気分転換にならない?」

「あーあー、ごめんだけど京介、今日は俺とデートする日だから。散った散った」

俺が呼び出された為、廊下に一人置いてきた京介の元に戻ると、バリケードができていた。普段は遠巻きされてることが多いのに、珍しい。そして流石というかなんというか。いつものように割り込むと、京介の周りにいるのは、別の遠いクラスの子だったり上の先輩方だというのに気付いた。通りで、こういうタイミングでしか話しかけられない子たちだ。先輩がいるのにいつもと同じ言い方で割り込んだことを、やべ、と思う前にあっさりと道が開いた。

「あーなまえくん、残念」
「またね、京介くん」
「なまえくん、ごめんねー」
「お、おう……?」

蜘蛛の子を散らすように、というのは大袈裟だが、聞き分け良くいなくなる女子に少し驚く。

「なまえ」
「……京介、お疲れ」
「遅かったな」
「ちょっと」

あっけにとられていると、京介に呼びかけられた。先ほどまで、全然知らない女子に絡まれていたというのに、疲れも照れも見せない澄ました顔だ。今更それを気取ってる、なんて苛立つこともなく2人並んで歩き始める。お互い慣れたものだった。ちょっとな、と呼び出された内容を誤魔化すと京介の視線が学ランポケットに落ちた。そこから少し覗いてる白い封筒に気付いて、慌てて手を突っ込んで隠す。いつもなら、呼び出しの後こんな手紙を京介に渡すけれど、今回は違う。これは俺に向けて書かれたものだ。京介の視線に気付かなかったふりをして、へらりと笑いながら教室の扉に手をかけた。

「あ、なまえくん。今度クラスのみんなで遊ぼうって話があるんだけど」
「京介は俺で忙しいから遠慮して〜〜」
「もーやだー!何それ!」

教室に入った途端かけられた言葉に返事をすると、いつもならのってくるはずの京介の声が続かない。うしろを振り返ると、心ここにあらずと言ったような、ぼーっとした雰囲気の京介がいた。ど、どうしたんだ……。顔の前で手を降ると、驚いたように京介の身体が跳ねた。ちょっとこんなに隙がある京介も珍しい。澄ました顔で、本当は具合でも悪いんだろうか。ようやく意識が戻ってきた目が、俺を捉えて、揺れた。

「――――なるほど、見る目があるな」

心なしかまじまじと顔を見られてるような気持ちになって、気まずくなる。考えすぎだが、京介のような顔立ちが整っている人間に見つめられるのは、慣れるもんじゃない。

「京介、どしたー?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ」


ドラマでもそうそうない



/
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -