俺の友人烏丸京介は、たいそうおモテになる。それはもうこの学校で一番モテる人は誰?なんて質問をしたら十中八九帰ってくる言葉が「烏丸京介」だ。確かに京介は、もさもさしていているが、それでも損なわないほどに端正な顔立ちをしている。初めは少しクールでとっつきにくい印象を受けるけれど、冗談だって言う案外面白くてユーモアがある奴だ。ボーダーでも強い位置にいるらしいし、頼れる男なんだろう。ああ、あと一つ。家族が多い長男は、やたらと面倒見が良い。そんな卑怯とも言えるギャップが、更に女心をくすぐるのだろう。高校入学初日、思わず先生が「嵐山がいなくなったと思えばお前か……」なんて言葉を零したぐらいだから、その勢いというのも知れるだろう。あの嵐山隊の嵐山さんと同等……それ以上かもしれない……とかどんだけだよ。
京介はなんでもないように振舞うが、こっちは堪ったもんじゃない。そう、都合の良い伝言役の、俺にとっては。
「あ、あの……私、ずっと好きで、」
「あーうん、えっと、京介に伝えれば良いのか?」
女の子と二人きり、そして女の子は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに目を伏せる。そんな勘違いしようにもない甘い雰囲気でも、決して期待はしない。高校に入学してまだ一年も経ってないっていうのに、こういう役割にはすっかり慣れてしまった。お前はモテていいよなー、なんていつもの愚痴と共にきっちりしっかりお伝えしますとも。
「え、ち、違うの……!これ、これはなまえくんに……」
「……俺?」
差し出された手紙に宛先は書いていなかったが、端の方に小さく女の子らしい名前が書かれていた。予想外の言葉に戸惑いながらも受け取ると、もう十分真っ赤だと思っていた顔が更に赤く染まった。その様子を見て、本当に俺宛てなのだと、実感してしまった。もしかして、もしかしてずっとこないと思ってた俺の春がやってきたのではないだろうか。京介が悪いわけではないが、その横でずっと霞んでいた俺を好きになってくれるなんて、もうそれだけで良い子に違いないなんて思ってしまう。この子を逃したらそんな子はいないんじゃないかって――――
「でも分かってるから!なまえくんには烏丸くんがいるもんね」
「え?」
「私でも、本当にお似合いだと思って、だから、私、気持ちだけでも伝えたくて……!聞いてくださってありがとうございました!!」
そう勢いよく頭を下げて去っていく女の子を呆然と見送って、言われた言葉をゆっくりと咀嚼する。
なまえくんには烏丸くんがいますもんね。
「…………え?」
漫画みたいなことあるわけない
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