※(原作知識有の)成り代わり
ドリップ悪女有(うっすらと陥れ要素)



トリップできるなんて神様に愛されてるんだわ、私。トリップできるならいいのよ、最初に生まれる場所を間違えちゃったぐらい。でも愛されトリップはできないなんて少し意地悪。でも好きな子には意地悪しちゃうものよね、大丈夫。どうしてもってお願いしたら一人だけならって言ってくれたの。一人だけ、ね……いえ、いいのよ!この原作知識があれば他はどうとだってなるわ。もしかして私、この知識を得るために最初はこっちに生まれてきちゃったのかしら?ありがとう神様、やっぱり優しいのね。神様に愛されてる。だから大丈夫。一人だけ、使う相手は決まってる。やっぱりA級1位よね!太刀川隊。私だけを守ってもらっちゃったり。なんちゃって。待っててね、太刀川慶くん……!


最初に名前を呼んだ子が君のことを好きになってくれるよ。それを本物に変えられるかは君次第。それはただのきっかけだってこと、忘れないでおくんだよ。
神様特典。
正しく人を愛することができるように。




     *



話したこともないのに人のことを知ってるかのような態度が気持ち悪かった。機密情報であるはずのボーダーのことも知りすぎている気がした。
甘ったるい匂いと喋り方に、最早嫌悪すら抱いたこともあるっていうのに。

「お前さ……何者なんだよ」
「な、何者って……なんでそんな怖い顔するの?」
「米屋やめとけって。とりあえず本部連れていけばいいだろ」
「いや、いい機会だ。警戒区域にいた以上、何があっても記憶を消せば問題ないからな」
「え、記憶……?!」

珍しくイラつきを堂々と表に出す米屋をなだめると、同じくピリピリとした三輪が女を睨み付けた。やべー三輪隊こえーやべー。
まあ俺もあんまりこのクラスメイトとは関わりたくないんですけど。焦ったような顔をする女を一瞥する。女の子に対してあまり褒められたことじゃないけれど、強引に、引きずるように女を引っ張ってくる三輪。あまりの警戒っぷりに注意する気も失せて、行くか、と背を向けたとき、

「ちょ、ちょっと待って!えーと、えーと、こ、公平!!」

あ、れ… … ?



     *



「次の休み模擬戦やろーぜ槍バカ」
「…………」
「え、なんだよ?」
「……次の休みはあの女と"でぇと"の約束してただろ。俺の方が先に模擬戦誘ってたのによ」
「え」

納得がいかない不満です。とでも言うように米屋にぶつけられたその言葉。身に覚えがなさすぎてビックリした。

「えー……と、そう、だった、か?」
「は? ……出水?」

最近、どうも記憶が途切れ途切れになることが多い。甘ったるい匂いが頭を動かなくさせて、気持ちが悪い。それなのに、その甘い匂いに名前を呼ばれると、どうしようもなく愛しい気持ちが湧き上がってくるのだ。あいつが好きで、好きでたまらくて。怪しいと分かっているのに、米屋と三輪から庇ってしまうぐらい、俺は……。――俺は、こんなだったか?

「……お前大丈夫かー?」
「……大丈夫に決まってんだろ」
「じゃああとひとつ聞いても良いか?」
「?、なんだよ?」

公平って誰だよ、なまえ

「……っ?! な、なんで、お前が、知っ…………あれ … ?」



何の話をしてたんだっけ。








"でぇと"は何の問題もなく終わった。ちょっと量間違えてんじゃね?と思うぐらいの香水も、背伸びした化粧も、俺の為だと思うと可愛く思えた。ボーダーに興味津々なのも三門市民なら分かることだし、俺のことがもっと知りたいのと言われれば悪い気はしなかった。自分の隊の話を当たり障りのない範囲で話すと、太刀川さんも凄いけどやっぱり出水くんも凄いのね!ときらきらした甘ったるい瞳で見られた。あの戦闘以外ダメ人間と比べられても、な。そう思いつつもなんだか必死な様子が微笑ましかった。


「つかれた……」

なのに、何で俺はこんなに疲れてるのか。そのくせ足は駆け足で家ではなくボーダー本部に向かっているのか。
あー、そう言えば家来たいって言ってたな。思わず本部行くからって言っちまった。何でかもっと嬉しそうな顔されたけど。それは流石に……って俺、なんで好きな子拒否ってんだ?
思わず足を止めると、心臓が早鐘を打ち、息が切れた。額に汗が帯のように広がって、前髪が張り付いた。走ったからというよりは、冷や汗のような嫌な汗だった。

「公平ってばー!どこー!」
「!」

おいおい、何でいるんだよ。
……いや、そういえばおれ、どうやって"でぇと"を終わらせたんだっけか。頭が痛くなった。甘い匂いがして、記憶がかすむ。ちょっと待ってくれ。
混乱する頭のまま、止めた足をまた動かして、本部に走った。

俺、なんで逃げてるんだ……?
俺はあいつが好きで、目に入れても痛くないぐらい可愛くて……本当に、そう思ってるのか?ならなんで、こんなに、好きだって思ってるはずなのに、気持ち悪いって思っ





「出水?どうしたんだ、そんなに慌てて」
「出水?」
「は……っ」

本部に駆け込むと、すぐに聞き覚えのある声が聞こえて、一気に気が抜けた。丁度帰ろうとしてたのか、多分三輪隊の奴らと、他に……はっきり確認する前に、膝が震えて崩れ落ちた。本気で走ってやがんの、格好わりぃ。

「おい出水?!大丈夫か?!」
「どうした、何かあったのか」
「……しつ」
「まず救護室に、」

駆け寄ってきた中で、一番前にいた奴ら二人を引っ張り、雪崩れ込むように抱きついた。

「いいいい出水?!」
「……シャワー室」
「はっ?!?!」
「シャワー室、きもちわるい」

染み付いた洗剤の香りと汗の匂い。同じ男の匂いなんて心底どうでもいいし好んで近づくものでもないが、今は丁度良かった。すり寄るように頭を押し付けて呼吸をすると、尚更安心した。甘い匂いが薄くなって頭がクリアになる感覚。最近よく身に覚えがあるこの感覚。このまま、服を着たままでいいからシャワーを浴びて、この甘ったるい匂いを全部消してしまいたかった。今日の"でぇと"は何をしたか。何も、全く思い出せなかった。けれど、もう深く考えないことにした。すごくつかれたんだ。すごく。

「きもちわるい。俺は、なんでこんなことして……違う、こんなのは俺じゃない。俺じゃないし、したくない。好きじゃないんだ。なんで、」
「おい出水、しっかりしろ!」

「……なまえ、大丈夫か?」
「あ……、」

慌てる周囲の声と対照的に、落ち着いた静かな声。押し付けた頭を優しく撫でられて、思考が現実に戻る気がした。おちつく。
顔をあげて上に焦点を合わせると、声とは裏腹に、焦りと不安を滲ませた二人がいた。なんだ、太刀川さんと槍バカか……。今気付くなんて、余裕ないな俺。

「だいじょうぶじゃない、たすけて」

さっきから震えが止まらないんだ。



    *



「…………あれ……、」
「目が覚めたのか」
「太刀川さん」

気がついたら救護室のベッドだった。初めてここのベッド使ったなーっていうか、何で俺ここにいるんだ?しかも太刀川さん付きで。太刀川さんがいるってことは……もしかして、もしかしなくとも、おれ防衛任務でヘマした?全然記憶にないけど、太刀川さんがずっと横にいるまでって……。なにそれ恥ずかしい。
その疑問を口にすると、太刀川さんは少し驚いたように目を開いた。

「あの女のことだが……」
「女? まさか人型近民界でもいたんですか?」
「…………お前、彼女いたことあるか?」
「はあ? 太刀川さん彼女でもできたんですか? 自慢したいんですか? お陰さまでいませんよ!ボーダーに青春売ってるんで」
「……いや、そうか。ならいい」
「なんか腹立つな」

気分はどうだ?と聞かれたので、すこぶる良いと答えておいた。倒れてすぐの返事としては、強がりも良いとこだけど、本当に気分が良かった。

「なんか、久しぶりに頭の中に靄がかかってない気がして、こんなにスッキリしてるのいつぶりだろ」

疲れてたのかな。救護室を出ながらそう呟くと、太刀川さんに頭を押し付けるように撫でられた。

「ちょ、や、やめてくださいよ!」
「お前あとで米屋と三輪に謝っとけよ」
「え、は?」
「しょうがないから、この太刀川さんが守ってやろう」
「いえ、もうヘマしないんで」

翌日学校でクラスメイトの女子が転校したらしいと聞いたけど、この三門市では珍しいことでもなかったので、何とも思わなかった。





■成主は公平って名前じゃなかったけど引きずられた。でも効きは半減。トリップさんはとっさに成主に近づいて太刀川さんに近づく計画で行こうとした。公平じゃなくてなまえって言われていれば、疑問すら持たずに好きになってた。




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