ネタのコレの話
※未遂モブ表現注意※
男主×出水 (男主(→)←←←←出水)




























出水公平には王子様がいる。

思い出したくもないことだが、出水がボーダーに入り、その実力を遺憾なく発揮し始めた頃。まだチームにこそ入っていなかったが、A級1位に目をかけられていた出水は、心ない者たちに襲われかけたことがある。10代の人間が多い、閉鎖的空間でおこる嫉妬と妬み、やっかみが渦巻いた故の過剰な加害行動だった。

もはや何度目かの「調子にのるなよ」などの罵倒や悪態に慣れてしまった出水の、生意気な態度もその要因であったかもしれない。



「意外と可愛い顔してるじゃん?俺イケるかもしれねぇ」「まじかよー」「まあまあ、とりあえず……な、」「無理矢理イかしてそれ録画しとくだけでも充分だし」「はは、」


嘘。嘘。嘘。うそ。なに、嫌だ、なんで。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。謝ってるじゃん。なんで離してくれないの。嫌だ、どうして俺が、ごめんなさいごめんなさい。あ、嘘、嫌だ、誰か――


「おい何やってんだテメェら」

出水の地獄のような空間に、怖い閻魔様がやってきて、正しく罪人を裁いた。
出水公平の、おうじさまだった。


ほぼ一発でその場にいた人間をKOさせたその人は、動けない出水を抱えて、人気がなかった倉庫から逃げ出した。連れていかれたそこを、自分の隊室だと言ったその人は、出水の扱いに困ったように頭をかいた。
それはそうだろう。と出水も思った。同じ男に乱暴されかけた男なんて、どう対応したら良いのか分からないし、出水も助けてもらったとはいえ、その直後に知らない人間と一緒にいるのは少しの恐怖を感じた。

――でも。
その人が伸ばした手を叩いて拒絶してしまったのを、申し訳ないと思うぐらいには、感謝していた。

「……」

「あっ……、あ、あの……すみませ、」

小さくこぼした謝罪は、投げられた布に包まれて消えた。顔面に当たったそれに、思わず変な声が出る。やたら大きい不思議な布から顔を出すと、それが隊室のベッドシーツということに気付いた。

「洗濯したばかりだから、許せ」

「あ……」

「見なかったことにしてやる」

出水から一番遠い位置に置かれたソファーに座ったその人は、顔を反らしてそう言った。

「……」

出水は無言のままシーツで身体全体を包み隠すと、少し、泣いた。



そうして腫れぼったい目と引き換えに、冷静な頭を手に入れると、出水はシーツから顔を出すのが気まずくなった。暫くじっとしていたが、シーツの中の息苦しさに恐る恐る顔をあげると、一番最初に目に入ったのは、正面のテーブル、の上にのったホットミルク。出水の正反対にあるソファーに目をやると、名前も知らないその人は、目を閉じて眠っていた。そっと目の前のカップを手に取ると、随分ぬるくなっていた。それは出水の目の前に置かれてからの時間の経過を知らせていた。「…………」間抜けな寝顔を眺めながら口をつけたぬるいミルクは、出水の喉の渇きと腫れぼったい目に優しかった。おまけに気の抜けた顔のこの人が俺を助けたのかと思うと、ちょっと笑えた。

目の腫れがひいた頃、ようやく目を覚ましたその人に、出水がどれだけ救われたか。
顔色が良くなった出水に、ほっとしたように慰めてくるその人が、出水の傷に絆創膏を貼ってくれてるようだった。
出水を連れて、太刀川さんがいる部屋のドアを蹴破りながら乗り込み、その人が説教する頃には、まあ流石に理不尽だろうな、そう思えるぐらいには、自分を立て直していた。正しくはきっと、太刀川さんの幼馴染みらしいその人――なまえに支えられて立っていた、だと思うが。








「なまえさん……!」

「おー、出水」

太刀川隊に入った出水は、それから暫くずっとなまえに家まで送られていた。
ロビーに出て、名前を呼びながら出水が駆け寄ると、なまえはひらりと手を振る。それから自然な動作で本部を出ると、なまえは決して出水の隣を歩かなかった。いつも少しうしろを歩いて、出水の話に相槌を打つ。多分それは、あの日近くに人が寄っただけでびくついた出水を怖がらせないように、という気遣い以外の何物でもなかった。

「あー、出水……」

「なんすか?」

「あのこと、なんだけどよ……」

「……」

ぴたりと出水の足が止まった。なまえが言いにくそうに"あれ"というものの心当たりは一つしかなかったからだ。

「あいつら、記憶を消して、ボーダーからも除名になったから」

「……そうすっか」

「出水も、」

「はい?」

「出水も、記憶……、消すか?」

それは全く予想外の言葉だった。太刀川隊に本格的に入隊したのもあったのだろうが、あの日から出水に対して周囲の悪態や罵倒が減ったのは、うしろにいるこの人が何かしらしてくれたのだろう。遅くなってごめんな、とそう付け加えながらも、あいつらの記憶を消したと言われたのも救われた。

でも、自分の記憶を、消す。
そりゃ……、忘れられるなら忘れた方が良い。あっても必要ないものだ。でも。長い無言のまま、出水がチラリとなまえを見るとなまえは不思議そうに首を傾けた。うっ、かわ……いやいや。出水は軽く頭を横に降った。

「良いです。俺」

「えっ」

「このままで大丈夫です」

記憶を消したら、なまえさんは今みたいに俺に関わってこないんだろうな、と思った。
あの日まで出水はなまえを知らなかったし、あの日がない出水の中に、今のなまえはいなかった。

「いやでも、出水……」

「なまえさん、俺の横歩いて」

「え、それ今関係ある?」

「ある。なまえさん、俺の横、歩いて」

出水公平には王子様がいる。
白馬には乗っていない。口も悪いし鈍感だ。品があるわけじゃない。でも、その人がいるだけで世界がキラキラして見えるから不思議だ。
出水公平には王子様がいる。
俺の、おうじさま。







■たいとる(?)詐欺ではない。




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