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一回目
夏休みのオボンって時期がこんなにも退屈だなんて思わなかった!!
毎年今頃ならお爺ちゃんとお婆ちゃんのお家へ行っていたのに、今回はずっとお留守番。「大人のジジョー」ってやつ。そんなこと言って、お父さんもお母さんも仕事で忙しいだけなんだけど。私、ちゃんと知っているんだからね。
夏休みはいつもオボンのちょっと前からお爺ちゃん家にキセーして、それからはずっとお爺ちゃんお婆ちゃんが遊んでくれて、いろんなところに連れってってくれる。だけど今回はナシ。 それでもまだオボンになる前だったら良かった。近所には親友のみっちゃんもしーちゃんもいて、公園に行けば同じ学校の子がいて、たくさん遊べたから。でもこのあたりの子供は皆オボンになるとキセーしてしまう。ちょっと足を延ばせば遊べる友達はいるけれど、そんなに遠くに行くことは危険だからってまだ許されてない。退屈でも怒られるのはもっと嫌だ。
だから今はこの近所に遊べる友達はいない。本当に退屈で、一人ぼっちだ。
「つまんなーい!!」 「っ?!」
思わず道の真ん中で叫んだらうしろからびっくりしたような声が聞こえた。暑いこのお昼過ぎの時間に人が居るとは思わなかったから叫んだのだけれど、間違いだった。恥ずかしい。そんな思いを抱えて振り返るとそこにはよく知った、けれど意外な人物。
「え、あれ? ……東堂くん?」 「あ、ああ。 みょうじさん。珍しいな、一人なんて」
未だに驚きがあとを引くように笑うその人はクラスメイトの東堂尽八くん。お日様に反射する黒髪が眩しくて思わず目を細めた。
「東堂くんこそ。オボンなのにお爺ちゃん家帰らないの?」 「……みょうじさんお盆の意味知らないだろ」 「なんで?」
東堂くんは失礼にも今度は呆れたようにゆるく笑って、俺の家は忙しいから休みでもどこにも行かないんだ、そう言った。びっくりした。東堂くんの言い方は夏休みの間中ずっとを指してるように聞こえたし、それが正解のような響きだったから。本当にどこにも行かないの、本当の本当に? 思わず何回も聞き直すと、東堂くんはその都度同じようにそうなんだと頷いたから私はやっぱり驚かずにはいられなかった。
――私は今年のどこにも行かないこの一回目だけでこんなにつまらないのに。東堂君は毎年そうなんだ。
そう思ってしまったら私は東堂くんの手を取らずにはいられなかった。そこには私が退屈を持て余していたからという思いがなかったわけではないけれど。
「……じゃあ東堂くん!今年の夏は私と遊ぼう!!」 「え!」 「えっ」
東堂くんは驚いた顔をして私の目を見た。
しっかり者の東堂くん。姿勢も箸の持ち方も綺麗でいつも先生に褒められてる。喋る時も他の子とは違って、静かなのにハキハキとしてて、女の子のことを「さん」って付けて呼んでる。そんなに丁寧に呼ぶ男の子なんていないから、ちょっとドキドキしちゃうねってみっちゃんが言ってた。けれどその分外で走り回って遊ぶ東堂くんを私は見たことがない。
「な、なんで……」 「え、嫌だった?」 「嫌とかじゃ……! なく、て……」
だからと言っては何だけど、私から見ると東堂くんは大人しい子の一言で。そんなに話すこともないから一緒に遊ぶのはちょっとつまらないかもとすら思ってた。タイプが違うっていうやつ? 先生に「ゆめこちゃんはいつも元気ね」って言われる私と東堂くんは、そう、タイプが違う。けれど。
東堂くんが、毎回つまらない夏休みを過ごしてるのは、ちょっと勿体ないって思ったから。
「じゃあほら、行こう! ちょっと先の空き地にね! ちょうちょとかバッタ、たくさんいるの!!」 「え、まっ…………あ、網とか持ってないぞ?!」 「えー私の貸してあげるー!」
東堂くんも、私も、楽しい夏になれば良い。
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