鳥頭と例のあの人

どこに繋がっているのか分からない階段。
遠くに見える、逆さまの床。

部屋でハリ○タを読んでいたからか、和風ホグワーツな空間に迷い込んだ夢を見てるっぽい。

「だったらちゃんとホグワーツを再現してほしかった。」

 「お前は中途半端だな」って言われる私の頭が作る夢だから、ちょっと違うのは仕方ないのかもしれない。床や階段の質感がリアルだし、私の夢でここまでしっかりしてるなら、十分すごい気がする。
‥‥‥でも、魔法で出来たファンタジックな学校というよりは、呪いが渦巻くおどろおどろしい幽霊屋敷といった感じで、見れば見るほどハリ○タ感とは全然違う。薄暗いし、貴婦人の肖像画じゃなくて、血のついた藁人形が飾ってありそう。
 自分の服はハリ○タ寮の制服じゃなくて、数ヵ月前まで着ていた高校のセーラー服と、スクールバッグ。変なところばっかりリアルで、ちょっと残念な気分になる。

「あ、ポッキーある。」

鞄を漁ったらポッキーが入ってたから開けてみると、チョコの甘い香りがふわりと広がった。夢で匂いを感じるのは、初めてかもしれない。
さてさて、ホグワーツっぽい薄暗い空間で棒状のものを持ったら、やっぱりあの呪文を唱えたくなるものだ。

「ルーモス!‥‥‥‥え、嘘‥‥」

ポッキーの先が光った。
‥‥‥なんか線香花火みたいにスパークしてるけど、光ってるからルーモスはマスターできたってことにしよう。


 他にもなんか出来ることないかな、なんて浮かれてポッキーを振り回していたら、どこかで和楽器の音がべべんと鳴って、視界が真っ暗になった。
 






「あれ?」

目を開けると、さっき居たよりも明るくて広い部屋にいた。ポッキーはまだスパークしてる。
そして向かいには、艶々に磨かれた革靴、仕立ての良いスーツを来た、赤い瞳のミステリアスな美青年――。

「どうやってここに入った?」
「和風ヴォルデモート卿だああああ!!」

大勝利!ありがとう、私の頭!!
ハリ○タの最推しが!!ヴォルデモート卿が!!
禿げの蛇顔じゃなくて、おそらく最盛期の、公式イケメンの姿ベースで、"和"のしっとりした美しさと絶妙なコラボを果たしてて、そんな顔面の暴力が目の前に立っている。
奇跡すぎる‥‥‥!

 思わず興奮して、ダッシュで握手しようと手を伸ばしたら、真顔でぺしっと払い落とされた。
酷い。自分の夢の登場人物と握手くらいしたって良いじゃんか。

「鬼狩りの手の者か?」
「鬼狩り?」

ちょっとハリ○タにはそういう概念はなかった気がする。この夢、どういう世界観なんだろう。なんかハリ○タ以外に夢に影響しそうなものって読んだっけ‥‥‥。
‥‥‥鬼を狩るってどこかで聞いたことがあるような‥‥‥。
あれだ、あの、ネットによく出てくる、パワハラ会議の‥‥‥。

「無惨様‥‥‥。」

そうだ。百合はノータッチだった私に新たな扉を開かせた、あの女王様系超絶美人、「無惨様」が出てくる漫画が、確か鬼と戦う系だった。ちゃんと読んだことはないけれど、無惨様のパワハラ会議のところだけ何回も見た。
 え、もしや和風ヴォルデモート卿だけじゃなくて、洋風無惨様がいらっしゃるの??
会いたい。御母様でも御姉様でもいいから、超絶美女に翻弄されるちょっとえっちな百合百合ワールドに連れていって欲しい。
それが無理なら私もパワハラ会議を受けたい。これくらいの至近距離で、塵を見るような目で見下されたい‥‥‥!
どうせ夢だし、殺されたっていい。むしろ殺されたい。

「卿、無惨様にはどうしたら会えるか分かりますか?」

卿(和風ヴォルデモート卿だと長いから、もう勝手に卿って呼ぶことにした)が、「はあ??」と言わんばかりに眉間に皺を寄せた。そんな表情をしても綺麗なんだから、本当に美形って素晴らしい。

「私が鬼舞辻無惨だ。」
「えっ違いますよ。何言ってるんですか。」

 無惨様は女なのに、自分の夢だからか、この人変なバグを起こしてるなあと思って訂正したら、卿の美しい顏に、すっごく太い青筋がビキビキッと浮かんだ。
それを見て何かヤバイなと思った瞬間、ヒュッと首筋のあたりを何か鋭い物が掠める。

「痛っ!」
「鬼になれたら使ってやる。私の血に適合できなくて、細胞が壊れるかもしれないがな。」

 展開についていけない。細胞とか言い始めたけど、科学の知識も必要な設定の世界観だったの?
ハリ○タは?ホグワーツは?
無惨様とのちょっと危ないオトナの百合の花園は?
混乱する私を置いて、少し切れてしまった首筋の肉が盛り上がって、変な熱を持っていく。え、これ大丈夫なの?
いくら夢でもクリーチャー化とか嫌すぎるんだけど。

「お前が鬼狩りかどうかは、鬼にしたあと記憶を読めば分かることだ。」
「記憶を‥‥読む‥‥‥?」
「ああ。何かまずいことでもあるのか?」

‥‥‥まずいことしかなくない?
大学生だ、18禁解禁だ!!って薄い本のえっちなやつを読み漁ったばっかりだ。なんでもいけるから、男性同士のハード目なやつも読んだ。
 夢とはいえ、異性にそういった記憶を見られるのはちょっと‥‥‥。
というか、夢ってこんなに痛さの感覚リアルじゃなくない?

‥‥‥じゃあ、これってもしかして‥‥‥
‥‥‥現実?

「いやあああ!」

初対面の美形男に性癖がバレる!
無理無理無理!ナシよりのナシ!!
プライバシーの侵害!
え!なんとかしなきゃ!!
待ってまだポッキー残ってるはず!
ルーモス出来たんだから、なんかそれっぽい呪文!!
行け!!!

‥‥‥‥‥‥ハリ○タって、負傷から回復する呪文あったっけ‥‥‥?


いや、こういうときのスマホ‥‥‥!
鞄の中に入ってたはず‥‥‥!


"圏外"

「詰んだ‥‥‥」

しかも携帯も宜しくないデータが詰まりまくってるから見られるとダメなやつ。
終わった。



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