「アインツベルンのドブネズミめ」

今晩来るであろう男のために、わざわざ自分の部屋を対痴漢用の魔術工房とすることにした。しかし、思うように実力を発揮することができず、雫はそうなった原因に悪態をついた。
魔術回路は魂に存在する。
そのため、前世の聖杯戦争で出鱈目に繋ぎ合わされた魔術回路は、そのまま今世の自分に引き継がれていた。幸いだったのは、この世に生まれ落ちたときに増えたであろう回路の1本が、不活化してしまった回路の一部を繋ぎ合わせる奇跡の位置に宿ったことである。
聖遺物を盗んだ生徒のような、歴史の浅い家系の魔術師よりは幾許かマシといった実力は得ることができたが、嘗ての自分に遠く及ばないことがただ悔やまれる。

――もうすぐ夜になる。
できる限りの対策はしたが、何か穴があるのではないか。
相手があのドブネズミのような危険思想の持ち主で、ホテルのワンフロア爆破のように、この屋敷一帯を焼き払う可能性もあるのではないか。
その場合の逃走経路は――。

嘗ての時計塔の仲間達が見れば、「その魔力で半日でそこまで作り上げるのは不可能」との才能への称賛か、「一般の痴漢相手にやりすぎ」という引き気味のコメントが得られるくらいの出来だったが、雫は不安で眠れなかった。



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