昨晩、無惨の言葉で大変なことに気づいてしまった。
無惨は、……無惨は。
……子作りの仕方を、知らないのではないだろうか。

 昨日の無惨は「早く子を授かれば良いな」と言っていたが、無理だろう。そのためにすべきことを未だしていないのだから。同じ布団で仲良く眠っただけでは子供はできないのだ。

 仕方のないことだと、分かってはいる。生きることで精一杯の後継でもない男児。子を成す必要も無ければ、恐らくその能力も無いと見なされた無惨が、性教育を受けていないということは十分有り得る話だ。むしろ掃除のような衛生管理すらまともに出来ていなかった女中たちが、そういったところだけきちんと管理していたら引いてしまう。
しかし、せめて誰か、それとなく彼に伝えておいて欲しかった。知らないのだから、これでは他でもない自分が教えるしかない。

知識のない童貞の少年に、手解きを……。

……何だか自分が、大変非道徳的なことをしようとしている気がする。魔術師に道徳も何もあったものではないが、自分の時代では犯罪ではなかろうか。
 しかし、かといって、自分が手出ししても気後れしない年齢に無惨が達するのを待つというのも望ましい手段ではない。

 人間と鬼。普通は違う種同士で交わっても子供は生まれない。半神半人の英雄という存在が聖杯戦争には居たが、神と人間が交わるという所業は、神と共に生き、大気中に濃厚な魔力が溢れていた神代だからこそ可能だったことだろう。
まだ鬼としての血が無惨に馴染みきっていない今のうちであれば、ちょっとした調整で何とかなるが、日の経過や人の血肉の摂取によって、無惨の身体が鬼として完全になればなるほど、無惨と自分の子作りは難しくなってしまう。

――子供は欲しい。
 鬼の持つ魔性の魔力と強靭な肉体を無惨から、魔術回路と多方面への才能を自分から受け継いで産まれる子供は、きっと優秀な魔術師になるはずだ。

……今夜、やるしかない。
そのためには、初めての無惨が満足できるよう、完璧な準備をしなければ。

 性魔術について、もっと研究しておけば良かったと思いながら、雫は怪しげな液体の入った小瓶を棚から幾つか取り出し、薬作りに取り掛かった。




 それから数刻後。
紫色をした粘性の高い液体やら、何かの骨をすり潰したような灰白色の粉末やら、得体の知れないものが混ぜ合わせられた小瓶を魔法陣の中央に置き、雫はいくつか呪文を唱えた。

――完璧だ。

出来上がった薬を、自分の血の入った白磁の小瓶へ数滴垂らして蓋をすると、雫はその小瓶を満足げに眺めた。

 薬師の中途半端な薬に苦しんだせいで、無惨は薬というものに抵抗感があるだろう。そういった無惨の心情に気を配り、薬は獣の嗅覚でも分からない、完全に無味無臭のものにした。
 用意した血も、魔力を込めた極上のものだ。無惨が自分の血を美味しく感じるのは、自分の血に流れる質の良い魔力から栄養を得ていることによるので、この血は無惨にとってさぞ美味だろう。
以前、性的興奮で魔力が暴走して気絶するという醜態をさらしてしまったが、こうしてある程度の魔力を放出しておくことでそれを避けられるので、自分としても都合が良い。
 あとは、こうして食事に混ぜたものを無惨に与えれば夜には効くので、無惨は何も分からなくとも、ただ自分の与える快楽に身を委ねていれば良い。

 これで無惨との初夜は完璧だと、雫は早速その小瓶を持って無惨の元へ向かった。



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