「お疲れ様で……あれっ!?」

 一月一日午後二時、事務室の引き戸を開けると伊地知さん、五条さん、七海さんが立っていた。
 伊地知さんが百鬼夜行の後処理で元日出勤するのは予め聞いていたが、あとの二人は想定外である。
 わたしは驚きに目をまるくして三人の顔を見上げた。だが、驚いたのは七海さんも同じだったようで、わたしに視線を留めたままぱちぱちと瞬きを繰り返している。

「あっ! あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「おめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
「あけおめ、ことよろ〜」

 新年の挨拶を口にしながらぺこりと頭を下げるわたしに、伊地知さんと五条さんが愛想良く笑って、そう返事をくれた。
 顔を上げたわたしの視線は、七海さんのそれとぶつかる。直後、彼は伊地知さんと一字一句変わらぬ挨拶の言葉をくれたので、わたしは口許を緩めて微笑んだ。

「元日出勤? 大変だねえ、補助監督も」
「いえ、わたしは昨日お休みを頂いたので。おかげで実家に帰れたので……それよりお二人は……」
「僕と七海は仕事。年末年始くらい後輩休ませたいしね」

 五条さんの言葉に、わたしは合点がゆき頷く。特級と一級の呪術師が駆け回れば大方の任務は早々に片がつくだろう。

「そんな気遣いに満ちた辛気臭い顔やめてよ。お互い様じゃん」
「いやまぁ、それはそう……そうですね……」
「それよりさ、知ってた? ほら見て、有名人だよ」

 はい?と答えるわたしに、五条さんが向けてきたのはスマホの画面だ。
 わたしが画面を見ようと彼に一歩近づくと、七海さんが背後で大きなため息をついた。一体何事だろう。その答えは画面の中にあった。

「え!? わ、わたし!?」

 画面の表示は、インスタグラムのとある投稿だった。
 大きく表示されている写真には神社を背景に、観光客と思しき男性と巫女服の女性が映っていた。女性というか、わたしだ。

「ハッシュタグで“雪風神社”とか“初日の出”ってなってるよ。あ、“可愛い巫女さんとツーショット”も」

 わたしは五条さんのスマホを引ったくり、画面を凝視する。さーっと血の気が下がるのを感じた。
 わたしの地元は観光地だ。地元の人気旅館や雪風神社がネットに載るのは珍しいことではないが、自分が載った経験はない。
 そういえば、写っている男性には見覚えがある。今朝、雪風神社で新年恒例の甘酒配りの手伝いをしていた時に、ツーショットをお願いしてきた人だ。インスタに載せても良いですかと軽いノリで訊かれた記憶も、はいと答えた記憶もある。つまるところ、完全にわたしの失態だ。
 おそるおそる、特大ため息をついた七海さんの相貌を見上げると、不快と同情が混ざりあったような微妙な表情だった。

「公務員のバイトは禁止だよ〜?」
「無給です! 家の手伝いです! 父が観光協会の人間なので、子供の頃からやってます!」
「そこじゃないでしょう……」

 七海さんが眼鏡を押さえて再度ため息をついたので、わたしは肩をビクつかせた。
 別にこの程度、学校的にはセーフだろうし、七海さんの表情に差す影の理由がわからない。不安げな表情のわたしに、五条さんが身をかがめて「この男の人に妬いてるだけだよ」と耳打ちした。聞こえてますよと五条さんに詰め寄る七海さんの表情と声音が、ドスが効いて怖かった。
 一年の計は元旦にあり――早速、前途多難な気がする。同情的な表情の伊地知さんに肩を叩かれ、わたしはようやく苦笑を浮かべた。
≪back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -