その日は凄い眠気だった。
仲間が居て、温かいコーヒーを作ってくれて、私はそれを飲んで、そのまま倒れた。

否、眠気は襲って来たのだ。
私は騙された。


「お前も騙されたの」

「ああ、バーンもか」

「まぁ、な…お互いチームを信じ切ってたってこった」


バーンのユニフォームは切り裂かれており、胸中の石は取られていた。(私は私服だったから無傷)


「此処は何処だ…?」

「さぁ、あのオッサンの作った研究所だろ、何があったって可笑しくねぇよ」
「そう…だな」


暗く冷たい牢屋。これ以外にこの場所を表す言葉はない。牢屋を挟んで狭い通路があり、また牢屋がある。通路には蛍光灯が数本。


「寒い…」

「お前のチーム名なんだっけか」

「喧嘩を売ってるのか」

「ハッ…なぁ、ガゼル」

「なんだ」

「お前、誰に睡眠薬盛られた?」


バーンは牢屋の隅で丸くなりながら呟いた。その目は向かいの牢を見ていて、私のことは見ていない。


「クララだ」

「ふーん、俺はヒート」

「なに!?」

「ンだよウルセーなぁ」

「す…まない」


ヒート、だと。だって、あいつはバーンを、バーン、の、幼なじみで…バーン、を誰、よりも…


 慕ってたのに


「ヒートだったらさ、疑うわけねぇよなぁ」

「……だろうな」


バーンは、幼なじみに裏切られたからか、自分の惨めさからか、小さく震えた。

一緒だった、私が見ている限り、ヒートとバーンはいつも隣で、フォーメーションも近くで仲が良かった。なのに裏切られた。バーンは、今どんな思いなの、か。

自然に私は気にならなかった。もう解っていたから。


「ガゼル」

「なに」

「俺、今ここでお前にまで裏切られたら、舌噛みちぎって死ぬかも…」

「裏切らないよ、裏切ったところでどうなるの」

「だよな…あいつら、どんな思いで俺から石奪ったんだろ」

「…きっと何も考えてないよ」


無意識さ、そう呟いた時にはバーンは泣いてた。


「なぁガゼル」

「しつこいぞ、今度はなんだ」

「俺さ、ついさっき気付いたんだ、お前が寝てる間にさ」

「…?」

「俺らは、これからどうなる?」

「消されるか、もしかしたら戻るかもな」

「その最初、消されるほう」

「どうした」

「それがあいつらの狙いならさ、足怪我させたり、何かすんじゃねぇの、なんで俺ら無傷なの」

「…!」

「ふざけんなよあいつら…!くそ、くそ、くそ…!」


その時、通路の奥からカシャン、と音がした。かつかつとスパイクの音がする。私達の前に立ったのは、両目を手で隠したグランだった。


「おい、グラン…早くこっから出せ」

「僕ね、君達のチームの人から“二人が足に怪我をした”って聞いたんだ」

「怪我なんかしていない、今すぐ出せ」

「みんな、泣きながら“凄い大怪我だ”って言ってたんだ」

「んなの…してねぇ…よ」


「“もうサッカーなんて出来ない、邪魔だから研究所から追い出してくれ”って頼まれたんだ」

「グラ…ン」


グランがそっと目から手を離した。その瞳は少し濡れていて、ちらちらと私達をみると、瞳を閉じた。

「本当だ、凄い怪我だね、これは使い物にならないや」

「………っ」

「父さんにはこう伝えておくよ、怪我をして使い物にならないから消しといた…ってね」


グランの足元にはボールがあって、とん、と蹴るとふわふわと浮かんだ状態になった。私は一度これを使ったことがある、確か、暑い場所で、イプシロンに―…



「君達の怪我を教えてくれた、優しいチームメイトに、感謝するんだよ」



白い光がその場を走った。




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