泣いてる。
え、は?
誰が?
「デス…タ?」
「…だよ」
「泣いているのか…?」
「だから?」
「いや…」
セインは酷く動揺していた。何しろ自分が愛してやまない悪魔が、目の前で泣いているのだから。
デスタは決して泣く奴ではなかった。それはセインが一番理解していたのだが、予想を遥かに越えた出来事に、脳は着いて来てくれないようだ。
「何故泣く…」
「悲しいから」
「そ…うか」
かつり、スパイクが地面を削った音がやけに響いて聞こえた。出来事は、数分前に至る。
デスタに好きと言われた。勿論付き合っているのだから、言われても当たり前だと感じたセインは、そうか、と照れ隠しに軽く返した。
そうしたらデスタは泣いた。
「デスタ、私」
「もーいいわ、帰る」
「え、待ってくれ!」
「なに」
「私は何かしたか?」
「…お前、俺のこと嫌いだろ」
――は?
ぽかりと開いた口が塞がらない。嫌い?誰がだ、私が、お前を、嫌い?
ふざけたことを
「言うな!」
「えっ」
「これほどまでにお前を愛してる者が私以外にいるというのか、ならば連れてこい今すぐに、私に会わせろ、私がデスタを嫌うなんてありえない!これは命にかえても言い切れる、お前は私が嫌いなのか、これほどお前を愛してやまない私を!ならば、」「わ、わかったからストップ!」
ずいずいと押し寄せるセインをなんとか黙らせ、デスタは溜息を吐いた。
「わかったから…ありがとう」
「なら…いいが」
二人は何とも言えない雰囲気になり、先に耐え切れなくなったデスタがふいっと顔を反らす。よく見たら顔は湯でダコ状態だった。
「そっか…好きか…そっか」と、嬉しそうに微笑むデスタを見て、顔が熱くなるのを感じたセインは、こほんと咳をひとつしたあとに口を開いた。
「でも何故、いきなり」
「ベリアルが…お前が俺に飽きたって」
「あ?」
「だから、好きって言った。そうしたら軽く返されて…だから…っ」
ぎゅう、とデスタを抱きしめた。ああ可愛い。なんて可愛いんだ、この悪魔は。
だが、
しかし
ベリアル許すまじ
心に決めた恋人馬鹿一人。