アニズマネタ
サッカーの件で、これほど後悔したことはなかった。何故、今日俺はヒロトをあそこに連れてってしまったんだろう。
『選手を道具みたいに…』
気付いたときには遅かった。ヒロトの瞳には過去の悲しみ、トラウマがはっきりと映っていたからだ。エイリア学園の過去と今回のロニージョの件。この二つは悲しくも似た点が多過ぎた。
「ヒロト!」
「あれ、円堂くん…どうしたの?」
「あのさ、ヒロト…えっと」
「なに?」
廊下でヒロトを呼び止めた。いかにも平気、という顔をしてるが、やはり何か違う。今のサッカーをしている時のヒロトの目と、ジェネシスの時のヒロトの目の違いは痛いほどわかっている。
そして今の目は、最初なのだ。初めて会ったヒロトの目。何かを我慢して、自分に溜め込めて傷付いていたヒロトの目だった。
「なんかごめんな…ガルシルドのこと、ヒロトのこと考えたら…俺」
「…や、やめてよ円堂くん、俺平気だよ、あの人と父さんは違う、父さんは円堂くんのおかげで目を覚ましてくれたんだもん…だから…ねぇ、円堂くん、そんな…かお…しないで…」
「ヒロト…」
ヒロトの身振りに戸惑いが隠し切れてなかった。最初の勢いで前に出された手は、今や行き場をなくして宙をさ迷っている。目は俯いて、唇をぎゅ、と噛み締める仕種は見ていられなかった。
自分よりも円堂を心配するヒロト、薄い笑顔の奥にはどれだけの悲しみが隠れているのか、その悲しみの中に、今日自分がまた一つ上乗せさせてしまったと思うと、どうしようもなく悲しくなって、廊下なのにも関わらず、その場でヒロトを抱きしめてしまった。
「円堂くん…!?」
「ごめん、ヒロト」
「やだ、やだよ円堂くん謝らないで…」
「謝らせてくれよ…ヒロト」
「だって」
「ヒロトを傷付けるの、俺は悲しいんだ、それを隠すヒロトを見るのも嫌だ」
ヒロトは力無く俺の服を握りしめた。ぽたぽたと床に涙が落ちる、ヒロトの。ヒロト、の悲しみが溜まった印しが、床に。
「円堂くん…!」
「うん、もう隠さないでくれよヒロト…悪かった、もう悲しませないから…」
「違う、違うんだ…俺、円堂くんがいなかったら、あの場で崩れてたかもしれない、円堂くんが、円堂くんがいた…からぁ…」
ぐすぐすと泣いて、俺に抱き着く。ああ大切だな、サッカーよりも?解らないけど。ヒロトの顔を胸に押し付ける。「くるしいよ、円堂くん」と笑いながら顔を埋めるヒロトから少し目を反らしたら、床に落ちたヒロトの涙が見えた。
これが、ヒロトの悲しみなら、俺が消してやりたい。
そう思って、俺はそっと涙を足で踏んだ。