これのその後
※この時は千年祭より百年前。やっぱり悪魔と使徒は長生きですよね。







嗚呼、お前なんか
お前なんか、なんで俺を すんだ、知らない、俺は『 』なんて言葉知らないんだから














背中の痛みで目が覚めた。がばり、と上半身を起こすと、背中にだらり、とたれた折れた羽が当たった。悲鳴をあげそうになったが、折られた時に叫んだせいか、喉がひりひりと痛む。


「くそ…!」


ちらり、と体を見ると衣服は何も纏っていなかった。ベットに寝かされているからまだ良いものの、流石にこれはないだろう。



セインに羽を折られ、捕まってから一日。羽はもはや使い物にならなくなっていた。ぶら下がっている、が正しい表し方だ。羽だって骨組みがあれば神経もある。足に骨があって神経があり、筋肉がある、そのようなものだ。この羽は今、根からぼきりと折られた感じで、骨が折れた足というわけだ。


「はぁ…」


情けない。悪魔にだって誇りがあった。千年祭まであと百年、魔王復活まで時間があまりないというのにこの様だ。泣きたい。


何故俺なのか。確かに今魔界の民の中心になっているのは俺だ、だがしかし何故殺さない、何故生かす。何度も何度も、気を失う前の台詞が浮かんでは消える。


『愛している』


狂いに狂ったセインの目には、使徒の勝利とか利益とかは何も写っていなかった、俺だ。俺だけを見てそう呟いた。


「愛してる…ね」

「ああそうだ、愛している」

「…っ!お前、その瞬間移動やめやがれ、今は力がなくて気配が察知できねぇんだ」

「そうか、悪かったな」


魔界も使徒も、人ならざる者。瞬間移動なんておてのものだ、俺も昨日までは(今更だがあの時に瞬間移動すれば良かったんだが、生憎パニックになってて気付けなかった。悔しいものだ)

セインは手に食事と衣服を持っていた。


「使徒の服なんて着ねぇぞ、趣味わりぃからな」

「おや、駄目か」

「あったりめーだ…くそ」

「…」
「……」


本当はいろいろ聞きたい。俺が生きてる意味とか、あの言葉の意味とか、沢山。でも無理だった、口が開かない。喉まで来た言葉は、舌の上で丸まってしまう。それほど今のセインには警戒しなければならないのだ。



「私は…デスタを此処に連れて来たことを後悔していない」


へぇへぇ、そうそう。
俺は後悔しまくりだ、早く帰りたい、魔界の、あの独特な暑さと暗さが好きなのだ、こんな明るくて環境がいい場所に居たくない。


「…デスタ、君が居てくれたら…私は何もいらないんだ」

「……俺はお前なんかいらねぇ」

「君が必要なんだ」

「俺は悪魔で、お前は天使だろうが、使徒だろうが…わかるか、敵なんだよ」

「わかっている、だが愛している」

「その言葉やめろ!」


まただ、愛している、愛している、この言葉。羽を折られた時もこの言葉のせいで力が抜けた、今だって苛立ちや憎悪が、この一言だけで消え去ってしまう。


「愛している、デスタ」

「……う」

「帰るな、私の側にいてほしいんだ、…お前を、デスタを心から愛してしまったから」

「セイ…ン」


許すな、こいつは俺から羽を奪い力を奪い居場所を奪った使徒なんだ敵なんだ恨むべき相手なんだ憎め憎め憎め憎んでくれ、一言で、揺らがないでくれ、頼むから。


「やっと、名前を呼んでくれた」



俺を愛さないでくれ。






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