郷田の背中が好きだ。
大きくて、広い。触ると温かいし、落ち着く。抱きしめられるのは好きだけど、どちらかと言えば俺が後ろから抱きしめる方がいい。俺は郷田の背中が好きだ。
「俺はお前を正面から抱きしめてぇな、仙道」
「俺はお前の背中が好きなんだ」
「背中だけか?」
「それ以外、どこにお前の良いところがある?」
「…そーかよ」
ふて腐れる郷田を余所に、俺は手の中にあるジョーカーのパーツを黙って磨いた。いつでも美しい光沢があるのが好きだ。汚れやへこみなんて許さない。
三体分、丁寧に磨き上げる。
そんな時、俺の首元に郷田の腕があることに気付いた。そのまま体を傾かせられると、ぽすんと郷田の腕の中、背後にはきっと胸板(固くて居心地が悪い)
「離せ、邪魔だ」
「仙道って体温意外と高いよな」
「離れろと言っているのが聞こえないのか?俺は後ろから抱きしめ“られる”のは嫌いなんだよ」
「なんでだよ」
「……何でって」
お前が見えないから。
言ってやらない。
俺がお前を後ろから抱きしめるのは好きだ。視界が郷田だけになって、要らない物はシャットダウン出来る。だが今の状態はそれが出来ない、お前が居ない。
手の中のジョーカーが怪しく笑う(いつもの事だが)
「俺はこれ、好きだぜ。視界が仙道だけになって、得した気分だ」
「…ああ、そうかい」
「でも、されるのは頂けねぇよ、お前がこれっぽっちも見えやしない」
「…郷田、体制変えろ」
「ん?」
腕を緩めたのを確かめると、郷田の膝の上で体を90度回転させて、横座りをする。横目で見上げると、目をぱちくりと見開いている郷田が見えた。
「これで、俺も見える」
「頭いいなぁ、仙道」
「お前が馬鹿なんだよ」
再び腕に力がこもる。