「あれ…」

朝から気温が高いとは思っていたけど、これは少々暑すぎではないだろうか。

ばらばらと持っていたタロットカードが地面に散らばる。コンクリートの地面がぐにゃりと歪むのが分かった。

ミソラ一中の体育倉庫。そこは仙道ダイキの放課後で最も有意義な空間である。毎日授業が終わればタロットカードで自分の運勢を占う。その日も勿論仙道ダイキはタロットカードを使っていた。


「吊された男の逆位置…体調をくずす…か」


その数分後、仙道ダイキの視界は見事に歪んだのだ。

昔から日射病や日光湿疹がやたら出たりと、日光に弱い体質であったのは知っていた。だがまさか暑さだけで倒れるだなんて思わなかった。

まいったな、これは。



















ゆらゆらと体が揺れているのに気が付いて目が覚めた。暑さとは違う暖かさ。頬がぴたりと肌にくっついて、少し汗ばんでいる。

「ん…はだ?」


そうだ、これは人肌だ。


「起きたか?」

「ハンゾ…、郷田!?」

「体育倉庫で倒れるなんて軟弱な奴だなぁ」

「なんで、お前が…おっ降ろせ!」


俺の目の前にあったのは暑いコンクリートではなく、天敵であるはずのミソラ二中番長、郷田ハンゾウだった。しかもなんだこの格好は、聞くな、言わずとも分かる、お姫様抱っこだ。は?俺は男だ、馬鹿かお前は!


「何でお前が此処にいる…っ!」

「あんまり叫ぶな、頭に響くぞ」

「〜っ」

「まぁ、何故と言ったら、偶然だな」

「は、ぁ?」

「リコ達が、この前俺がお前に負けたことをまだ根に持っていてな、仕返しというか偵察というか、とにかくミソラ一中に乗り込んで行ったんだ、そんなことしたらもっと面倒なことになるからな、あいつ等より先にお前を探し出そうと走り回ってたら、倒れてたお前を見付けた」


「な」


―なんて馬鹿らしい理由だ。一瞬でそう思えた仙道は馬鹿らしくなり、郷田の胸元に顔を埋めた。先程から感じる肌の温もりは、郷田の大きく開けられた胸元からだとすぐ分かった。



「まぁ取り敢えず、そこら辺にいた奴に保健室の場所を聞いて、今向かってるところだ」

「保健室なんて二中とほとんど場所は同じだろう、職員室の直ぐ近…く」


そこまで言ったところで仙道ははっと顔を上げた。“保健室に向かってる?”それは則ち、今居る場所は、

そこまで悟った仙道はがたがたと震えながらも辺りを見渡した。

それは悟った通り、校舎の中、そして廊下(しかも放課後)であった。

ミソラ一、二中の番長が揃って廊下を歩く(正確にはお姫様抱っこ)なんて、いい見世物、嫌でも視線が集まる。その通りで、今仙道たちには廊下に居る生徒全員の視線が注がれていた。


「お、おおお降ろせ!!」

「もう直ぐだ、我慢しろ」

「お、俺は見世物じゃない」

「まだ顔が赤いな、急ぐか」

「走るな、目立つな、おい、聞けよ郷田、止まれ、おい!」


その時、はらりと仙道の手から何かが落ちた。それはきっと郷田が持たせたのだろう、地面に散らばっていたはずのタロットカードだった。

たった一枚、廊下に落ちたカードは、郷田が走っていたため良く見れなかったが、今の状態で仙道にはよく理解できた。


「恋人たちの正位置、運命の出会い、偶然の再会をした人…か」



ああ、本当に俺はついていない。







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