「兄さん」
「ニコ坊…?」
賽銭集めが終わり、いつもと変わらぬ神社に足を向かわせ歩いていたときのこと。ニコリン坊ことニコ坊は、兄であるオコリン坊に呟いた。兄さん、と。
「どうした、ニコ坊?疲れたのか?」
「違います兄さん、うち考えてみてん…」
「考え?」
「…うちな、もう兄さんの後ろ歩くの嫌やわ」
そう申し訳なさそうに喋る弟を見て、兄オコリン坊は耳をぴくりと動かし眉間のシワをなくす。どうして、と呟けば、ごめんなさいと返ってきた。
「嫌なら…前歩くか?」
「違います、うち、兄さんに頼ってばかりはいやなんですわ、兄さんに頼ってもらいたい」
「…ニコ坊」
いつも笑いに満ちている笑顔は消え去り、じっと兄を見つめている弟。自分に頼られたいと願う弟の目は確かに本気だった。
「うち、兄さんが好き」
「俺だって…」
「ちゃいます!好きっていうのは…」
「わかってるよ」
「えっ」
「そんなの、千年前からずっと気付いてるさ」
俺たちは、狛犬兄弟だろ。賽銭箱を弟に向けてぽてぽてと歩き出す。そうやね、ごめんなさい。弟の声が聞こえる。