キョアーオ!
「窓付き!また包丁でセコムマサダを…っ」
「だって、逃げたんだもの…でも大丈夫よ、ほら私がまた眠ればまた彼は起きるから」
「そういう問題じゃない!俺はセコムマサダが傷付くのが嫌なんだ…」
「貴方の独占欲で縛り付けられる方が、よっぽど先生を傷付けていると思うけど?」
「えっ」
そう言うと窓付きは自転車で走り去ってしまった。俺は直ぐにセコムマサダに駆け寄ったけど、既に生きてはいなかった。
きゃあ!
窓付きの悲鳴が聞こえる。きっと鳥人間に捕まったんだな。なら、そろそろ彼女は夢から覚める。そして彼は戻ってくる。
ほら、戻って来た。
「ピロロ…」
「おはよう、セコムマサダ」
「…!?ピロロロロ!!」
「大丈夫、窓付きはもういないよ」
「ピロ?」
「うん、本当」
最近は辞書のおかげでセコムマサダと話せるようになってきた。俺はセコムマサダを抱き起こすと、血も何もなくなり綺麗になった姿をまじまじと見つめた。
貴方の独占欲で縛り付けられる方が、よっぽど先生を傷付けていると思うけど?
「…」
「ピロロ」
「……え、ああごめん、なに?」
考え込んでしまっていたのか、セコムマサダが文字を書いた紙を俺の目の前に出していたことに気付かなかった。
(大丈夫ですか?)
《うん、大丈夫だよ》
(死体さんも、窓付きさんに刺されたんですか?)
《刺されたのは君だけ》
(じゃあ、何故悲しそうなんですか?)
「え…っ」
目の前のセコムマサダは焦点の合わない目をちらちらとこちらに向け、細くて長い黒い指をもじもじと絡めていた。
悲しそう?
俺が?
よっぽど先生を傷付けていると思うけど?
「………」
《セコムマサダ》
(何ですか?)
《セコムマサダは、俺が窓付きに対してしっとしたりするのどう思う?》
(しっと?しっとってなんですか?)
「ああ、そうか嫉妬はセコムマサダの星には無い言葉なんだね…」
《セコムマサダを俺に縛り付けているこの状態は嫌じゃないかい?》
(痛いのは嫌です)
「あ、そっちに行くんだ…」
ぱさりと紙を置いて、溜息をはく。やはりセコムマサダを縛り付けているのはダメなんだろうか。それくらいの独占欲も、彼女によって作られたこの世界では許されないんだろうか?
そんな時、俺の肩をとんとんとセコムマサダが叩いた。
「なぁに、セコムマサ…ダ」
そこに書かれていた言葉で、俺はとても救われた。
《でも、貴方と一緒なら痛くても平気です》