朝から体調が悪かった。軍人たるものいつ戦闘になるのか分からない、そんな立場であるからこそ、体調管理には責任を持たなければならないのだ。

昨日、資料室で23年前のある戦略を見付けた。それは無駄がまるでなく、的確な戦略だった。そこで悪い癖が出てしまい、何か落とし穴はないかと検証して、つい消灯時間をオーバーしてしまった。

だがその努力は今日ある特別講義の為で、前のディベートでバダップに負けたのはエスカバにとって悔しいことだったのである。


(くそ…だりぃ)


エスカバはふらふらと歩きながら教室に入った。そこには講義の予習をする者、騒ぐ者と既に多くの生徒が集まっていた。


(やばい、遅れた…)

ふと周りを見渡すと、いつも誰よりも先に来て予習をしているバダップが見当たらなかった。

クラスメイトに聞くと提督に呼ばれたらしい。まったくこれだから優等生は、取り敢えず席につき今日の講義の準備をする。

(バダップがいないなら楽勝だな、うちにはエスカバがいるんだ)(そーだな)

うるさいだまれ。
バダップに勝つために夜更かしして体調壊して、なのに肝心のバダップがいねぇなんざ馬鹿げてんだろ、くそ、くそ、くそ!
























オレがヒビキ提督に呼ばれたのは生徒にもまだ極秘の未来への介入ミッションのことでだった。部下を自分で選んでよいということだったので、目を付けていたエスカバとミストレを誘おうと考え、まず一旦自分の部屋に帰ろうと、自室までの廊下を歩いていると部屋の前で何かが倒れているのに気付いた。見覚えのある黒髪、そうだあれはたった今頭の中に浮かんでいた人物、エスカバだ。




「…ん?」

「エスカバ、何をしている」

「…」

「…体調が悪いのか」

「別に、ただの貧血だ、そんなことよりテメェ、なんで講義に来なかった、お前が居なきゃ張り合いがねぇんだ、よ」

「あ」


自分でも珍しく声が漏れたと思う。壁にのしかかる状態で座り込んでいたエスカバがぱたりと床に倒れたからだ、顔色が悪い、息も荒い、症状から見て熱、か風邪の類。


(…寮の医務室は一階、生憎オレの部屋は五階…そして目の前、適切な処置は出来ないが、移動中に吐かれても困る)


結論、オレの部屋に運ぶことになった。医者は後から呼べばいい。これから未来への介入ミッションがあるというのにこれ以上体調を崩されても厄介だ。



























「あー…れ、バダップ?」


目が覚めた時、目の前にいたのはバダップだった。確か講義に来なかったバダップに一言言ってやろうと思ってアイツの自室に行ったら留守で、待っている最中に寝ちまったんだっけか、


「わ、わりぃバダップ」

「体調管理を疎かにするとは、関心できない」

「…わり…、でもよこれはお前に勝ちたくて」

「感情的に行動するのは愚かなことだ」

「う…」


手厳しい、確かに悪いのは俺だし何も言えないが、そもそも俺の行いを全てパァにしたのは何処のどいつだ畜生。

重い体を持ち上げて起き上がる。そしてふと気付いた、俺は軍服は着ていない。タンクトップだけだ(おそらくバダップが寝やすいように脱がしてくれたんだろう)

周りをよく見れば水が置いてあるし、そもそも医務室じゃなくてこいつの部屋。

冷たいことを言っていても、なんだかんだで俺のことを気遣っていてくれたらしい。


(…あーもう)

「バダップ」

「何だ」

「…悪かった、次からは気をつけるからよ」

「……」


そう言って頭を低く下げるとバダップは黙って目線を反らし立ち上がった。何処に行くのかと思えば手前にあったテーブル、に、置いてある紙袋を手にとった。


「お前が寝ている間に医者に診てもらった際、薬を預かった」

「え、あぁ…ありがとうな」

「別に、許したわけではない、軍人が体調管理を怠ってどうする、次から」

「気をつける、分かったよ…ん?薬、二錠くらい足りなくないか?」

「ああ、お前が寝ている間に飲ませた鎮静剤だ」

「ふーん…どうやって?」



「……」

「……お、おいバダップまさか」




「大丈夫だ、医者ではなくオレがやった」







そういうことじゃない












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