人に頭を下げたことはない。勿論、魔界の民になんて下げる気にもならない、だが私は。
「え、魔王様の間に連れていってほしいの?」
「ああ、頼む」
「でもあそこは魔王様に認められた者だけが入れて…私は…」
「君は入口まで案内してくれるだけでいい、あとは私が」
「何をするの?」
「!」
一瞬体が動かなくなるのが分かった。続いて冷汗、奮え、私はデスタの元に行って何をする?慰めるのか、ああこんな疑問、来る時からあったじゃないか!なんで今更そんな疑問で悩むんだ!
「行って…私は」
「使徒さん?」
そもそも私は、何をしに此処に来た。考えもなしに敵の住家に乗り込むなんて自暴自棄。私らしくない、私があんな不浄の者の為に考えもなしに動くなんて、私らしくない、本当に私らしく、
私らしく?
私は使命により、貴様を憎み、封じ込めなければならない。デスタ、お前を。
『助けてくれ』
私らしくとは何だ?
デスタはまた、民の知らぬ間に泣いているのか。
あいつの涙を見たくない、一人にしたくない、そんな感情が何故込み上げてくる?
私は何故此処にいる?何が目的で此処にいる?
デスタは、魔界の民を絶望から救うために、自分をどれだけ犠牲にして来たのだろう、この千年祭にどのような思いで挑んだのだろう。
私はデスタを救いたくて、
また、デスタは泣いてしまったのだろうか?
「……そうか私は」
全て、あいつの為に動いてたのか。
「使徒…さん?どうしたの?」
「頼む、」
「え?」
「魔王の間に、私を連れていってくれ」
「…貴方は何をするの?魔王様を殺してしまうの?」
「そんなことはしないさ」
ただ、
魔王に縛られた彼を、救いに行くだけだ。
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