憎い
貴様が憎いのだ
私は使命により、貴様を憎み、封じ込めなければならない。デスタ、お前を。


「今回は失敗したが…次の千年後には必ず、我ら魔界の民が天界を征服する!」

「…っ、待て!」


天界が魔界に飲み込まれたときに、魔界の民の気持ちが少しだけ入り込んで来た。千年前、魔王が天空の使徒により封印されたあの瞬間から、魔界の民は恐ろしくうなだれた。

誰もが生きる気力をなくし、弱音を吐く。荒んだ状態で、ただ一人、魔王復活を唱えた者がいた、それがデスタだ。

泣き崩れた者に手を差し出し、荒んだ状態の中貴重な食料は自分の分まで誰かに与える。落ち込む者を笑わせたり、元気付けたりと、少ししか流れ込まなかった記憶の中でもデスタは魔界の中心だった。

そんなデスタだからこそ、気の荒い、野蛮な魔界の民を束ねた魔界軍団を仕切れるリーダーになれたのだ。

だが、そんな記憶の中に、一瞬だけ、一瞬だけだがデスタの背中が見えた。一人で、肩を震わせながら涙を流し、魔王が封印されている空間にいる。たった一言。

『助けてくれ』


あのデスタは、一体何を助けてほしかったのか、魔界の民か、それとも、自分、か。


「デスタ…」


円堂達と出会い、魔王復活を阻止してから三日がたった。これでまた千年の平和が訪れる、と使徒達は皆喜んだ。だが、私の頭の中はあの記憶が取り巻いている。魔界は、またあの絶望の世界になってしまったのか、デスタはまた、民の知らぬ間に泣いているのか。


正直に言えば、使徒の私が悪魔のデスタを気にかけることは可笑しい。天界は天界、魔界は魔界、どちらが滅びようと悲しもうと、関係ないのだから。なのに、何故私はデスタを気にかける?魔界の民の絶望よりも、デスタの絶望を気にかける?

あいつの涙を見たくない、一人にしたくない、そんな感情が何故込み上げてくる?


「…負けた者の苦しみ、か」

そういえば、そんなこと考えたことなかった。千年前に使徒が勝った、魔界が負けた。魔界のことだ、どうせ「畜生、畜生」と悔しがっているだけだと思っていたが、私が見たのはそんなお気楽なものでなく、もっと残酷なもの。血眼になって、縋るものを見付ける魔界の民だった。


デスタは、魔界の民を絶望から救うために、自分をどれだけ犠牲にして来たのだろう、この千年祭にどのような思いで挑んだのだろう。

私は、今までデスタが苦しみながらも救って来た魔界を、また絶望にたたき落としてしまったのだろうか。

不安が込み上げては爆発して、また不安ができる。

だって、あの時の、負けた時のデスタの顔は、記憶で見た泣き顔と、よく似ていたから。




また、デスタは泣いてしまったのだろうか?










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