2話
デスタに大体教会を案内したら、私は泥棒の埋葬を始めた。この教会に入らなければ長生きできたものを、またこれも運命か。
教会の裏にある小さな墓地。そこで穴を掘っていると、パタパタと羽根を動かしこちらに向かって飛んでくるデスタが見えた。なにやら不思議そうに穴を見ている。
「んな穴に埋めたって、魂は俺の腹ん中だ、天国にも地獄にも行けやしねぇぞ」
「わかっている、だが放置するわけにもいかないだろう」
「ふぅん」
遺体を穴に入れ、土を被せる。途中デスタも手で土をかけた、「いい子だ」と頭を撫でてやると、顔を赤くして大袈裟に照れた、先程も思ったがやはり可愛い、ペットを飼った気分だ。
「さて…デスタ、お前は私とあまり背丈が変わらんから服は私のを着ろ、食べ物…は肉でいいな?」
「肉?人肉か?」
「さらっと言うな」
とは言っても、私は神父になってから肉を食べない、だから冷蔵庫を見ても肉はない。則ち買ってくる必要がある。今デスタを一人にするのは釈だが…連れて行くわけにもいかない。なんせこいつは大昔の悪魔。今現代を見せれば混乱するかもしれないからだ。
「いいかデスタ、私はお前の食料を買ってくる、大人しく私の部屋で待っていろ、でなければ聖水を頭からぶっかけるからな」
「わ、わかったって!」
そういうとセインは部屋を出て行った。俺は狭くも広くもないこのセインの部屋でこれから過ごすらしい。
ベッドとミニテーブルに花瓶が一つ。窓が二つ、白い壁紙でなんともシンプルだ。奥に棚のような物もある(先程セインはそこから服を出していた)
ベッドに置かれた服になんとか着替えて、部屋を歩き回る。服に羽根がつっかえて苦しいが、セインの服なので破るのは我慢した。
ふと花瓶を見ると、一輪の花がささっていた。先程の墓にも同じ花があったはずだ。
(そうかセインはあそこから持ってきたんだな…)
あまりにも綺麗だったから近くで見たくなり、花瓶を持った、が、予想以上に水が重く花瓶をテーブルに叩き割ってしまった。
「しまっ…」
身を引こうとしたが遅れた…俺は悪魔が最も苦手とする教会の水を、教会で清められた聖水を体に被ってしまったのだ。
かかった腹から熱を持つ。その場に倒れた俺は、だんだんと力が抜けるこの体をなんとか持ちこたえさせることしかできなかった。
(セイン…セイン、馬鹿野郎早く帰ってきやがれ…っ!)
……
思ったより遅くなった。肉はいつ見ても高い、デスタにも野菜を食べさせるくせをつけなければ教会は赤字になってしまう。
そんなことを考えながらセインは自室のドアを開けた。
「…なっ」
そこで見たのは、割れた花瓶と倒れたデスタで、しかもデスタときたら殆ど虫の息であった。急いで起き上がらせると、デスタの腹あたりが濡れていることに気付いた。
「デスタ…お前水を…!」
「セ…イン?」
「くそ、喋るな!どうすればいい!?」
「体力つけ…なきゃなぁ、なんせ…何百年も空腹なんだ」
「……」
肉はあるが、正直まだ肉でデスタの腹が満たされるという確信がない。むやみに食べさせても、体力を使うだけということがある。考えろ、どうする。
「セイン…」
「なんだ、言ってみろ」
「セイン…が、欲しい」
「なに?」
「少しでいい…んだ、セインの魂くれよ」
「私を殺す気か?」
「じゃあ…体液」
「血…なんて」
ぎゅ、と抱き着いて来たデスタは弱々しく、私を騙して殺そうとしているようには見えなかった。だがそれでも魂はあげられない、しかし体液くらいなら、少しは、なんて考えてしまう。私はまだ会って間もないこいつに、何を依存しているのか。
「わかった、少しだけだぞ…で?どうすればいい?」
「くち、貸せ」
「口をどうす……!」
何がなんだか解らなかった。口を近付けたら吸い付かれて、そこから一気に血の気が引く感じがしたのだ。だがこれは、一般的の表現ではキス、というのではないだろうか?私は、今悪魔と何をしている?
「ま、て…デスタ…頭が痛い…!」
「ん…ぁ、悪ぃ吸い過ぎた」
「!?」
一体今日は何なのだ、悪魔に出会い、キスをされ、そして今私はその悪魔の顔を見てどうなっている?
間違いない、私は今、デスタに欲情している。神父になって性欲など、捨てたはずなのに、私って奴は、私って奴は…!
「うわ…っ!」
気付けばデスタをその場に押し倒し、その唇に食らいついていた。言い方を変えれば私はデスタの唇を味わうかのようにしゃぶりついている。性欲を捨てたなど嘘っぱちだったらしい、正直に言おう、何故か私はデスタに欲情している。
「おい…セインっ」
「!?」
「俺は別に構わねぇが、これ以上シたらお前死ぬぜ?」
そう言われてびくり、と体が奮える。貧血だ、と思った時にはデスタに覆いかぶさる形で倒れていた。デスタをちらりと見ると、先程よりぴんぴんしているのが分かる。
「体調は…良くなったか」
「ああ、あんたが無駄に体液くれたからな」
「……」
「なぁ、セイン」
「なんだ」
「お前、俺に欲情しただろ」
「黙れ」
「照れんな、人間なら当たり前だ…悪魔の接吻は人間の欲を引き出すからな」
「面倒な能力だ、やめろ」
「無理言うなよ」
デスタは笑いながら起き上がると、にこ、と笑った。それに一瞬どきり、としたが知らん顔をして私も起き上がる。
「お前さ、これくらいで欲情してたら、一週間で俺に心取られるぜ?」
「よ、余計なお世話だ!」
ああもう訳が解らん。
私はとにかくキッチンへ急いだのだった。
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