1話





町外れの小さな教会。
そこが私の居場所だった。外人とのハーフで孤児、その条件で差別しない人はいない。

そんなときに、私を引き取ってくれたのがこの教会の神父。私は神に感謝し、この教会の神父を受け継いだ。


受け継ぐときに言われたことは二つある。


ひとつ、神に祈り、迷い子は心優しく受け入れる。
ふたつ、開かずの箱は開けないこと。


開かずの箱とは、教会の物置にある古い箱で、十字架のついた鎖で頑丈に閉じられている。

昔から悪魔が封印されている、と言われている。この現代に悪魔など、と馬鹿にはしているが、私は神父になって3年間、ずっと約束を守って来た。

だがある日、物置に泥棒が入った。


気付いたときにはもう遅く、物置はめちゃくちゃで、急いで箱を探したら、十字架は無残にも契れ、箱は開いていた。

そして箱のすぐ側に、息を引き取った泥棒らしき男が倒れていたのだ。


「これは…」

『カッカッカ、魂を喰ってやったのさ』

「誰だ!」


後ろから声がし、急いで振り向くとそこには褐色肌で長く癖のかかった茶髪をした悪魔がいた。


「封印の悪魔…か?」

「ああそうだ、デスタだ」

「封印が解けたのか…」

「その男が開けてくれたんだ、感謝してるぜ」

「だが死んでいる」

「腹が減ってたんだ、…にしてもアンタ、良い匂いだな」

「ほぅ、私を食べるか」

「いいのか?」

「来た瞬間に封印してやる」


胸元の十字架を握り、距離を取る。十字架を見たデスタの顔は変わらないが、酷く恐れているようだ。ならこちらにも勝機はある。

少しずつ歩き、入口まで行き悪魔の逃げ道を塞ぐ。デスタは部屋の隅に移動し、出来るだけ十字架から逃げているようだった。


「十字架が怖いか」

「まぁな」

「私は怖いか」

「神父は、俺を封印する者だからな」


ちらり、と箱をみる。
泥棒が乱暴に開けたのだろう、ネジが取れてフタが取れている。神父から聞くにあの箱は、対悪魔用の貴重な箱らしい。悪魔を封印するのに、普通の箱では役に立たないだろう。


「…なぁデスタ」

「んだよ、神父」

「貴様、悪さをしないと誓うか?」

「あぁ?俺は悪魔だぞ」

「すればすぐに十字架を口に突っ込んでやる、それとも聖水を頭からかけようか?」

「なっ、聖水だぁ!?」


デスタは「勘弁!」と叫びながら縮こまった。なんだ、以外にも可愛らしいではないか。


「此処に住め、デスタ。そうすれば最低限の自由をやろう」

「こんな十字架だらけの清めの場所に住めだぁ?」

「私の部屋を使えばいい」

「…何を企んでやがる、俺は悪魔だぞ、退治しねぇのか?」


「生憎、神父の座を受け継ぐ時に、“迷い子は心優しく受け入れる”と約束してしまったのでな」

「………は?」

「私はお前を封印できない、殺すことしかできぬから、生かして受け入れることにした」


そう言うと悪魔はカッカッカ、と笑い出して私に近付いて来た。

「隙を見て、お前を喰っちまうかもしれねぇぞォ?」

「ならば毎日聖水を飲むかな」

「げぇ…」

「来い、デスタ。部屋まで案内しよう…いや、まず服か…」


ボロボロのデスタの服を見て、まず風呂、食事…多分肉を与えれば良いだろう、それから服も買わなければ…などと考えながら歩き出した。悪魔の手をしっかり掴んで。


「なぁ、あんた名前は」

「ああ…まだ名乗ってなかったか…」




「私はセイン、はじめまして、悪魔」



これから悪魔と私の奇妙な生活が始まる。







prev | next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -