セインは見た!
「あ…」
「よう、セイン」
夢を見ているのか。
確かに私の前には、ひょこひょこと羽根を揺らしながら、ひらひらとした可愛らしい服(昔自分も着たことがある)を着て、モップで床を掃除しているデスタがいる。私の(一方的に)愛するデスタがいる。
直ぐにわかる、ギュエールの仕業だ。だが今はそれどころではない。
「かわいい…」
「あ?聞こえねーよ、でかい声で話せ、セイン」
「あ、いや、その格好は…」
「変だろ、牛の女神に着せられたんだ…やっぱりあいつ、卵のこと怒ってんのかな…」
「変ではない」
「は?」
「変ではない!」
「え」
気付けば私はデスタの手を握っていた。からん、とモップが床を叩く。勢いで引っ張ったせいか、デスタの顔がとても近かった。ああそうか、デスタはバランスを崩したんだ。そう理解した時には、デスタは私の胸に体を預けるように倒れていた。
私は妙に落ち着いていて、まじまじとこちらを見上げてくるデスタを見つめた。
(ああ、なんて大きい瞳なんだ、きらきらしてて凄く美しい)
「セイン、痛てぇ」
「あっ、すまない」
「履き慣れねぇ靴だからふらつくんだ、急に引っ張るなァ!」
「すまない…」
「たく…てかお前は、他の天界の奴らに俺のこと言いに行ったんじゃなかったのかよ」
「そのことならもう大丈夫だ、皆の承知を得た」
「そうか」
デスタはぶつぶつと小言を言いながら私に背中を見せ、モップを拾いあげようとしていた。なんだか残念だが、仕方がないだろう。
(それにしても、凄い服だな…ギュエールの手作りだとしても、これはフリルが付きすぎだ…フリルを重ねたらたしかにふわふわとした見た目になるが、それなりに短くなる、屈んだら中が見え……)
「中が、見える…?」
そうだ、今デスタは何をしようとしている?モップ、それだ、モップを拾おうとしゃがんで、いや、豪快なデスタのことだ、しゃがむなんてしおらしいことはしない、普通に屈んで、今、私に背中を、向け、か、屈ん、で…?
「かぼちゃパンツ…!」
「あ!?ってめ!なに鼻血ふいてんだ!今掃除したばっかなんだぞ!お、おいセイン!?大丈夫か!?」
私はそのまま倒れたらしい。
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