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かつかつと宮殿に足音が響く。それは先程キッチンから出て行ったギュエールだった。

(さっきはあんなこと言っちゃったけど…やっぱり心配だわ…)


ギュエールの手には、先程汚れたデスタの為の服が握られていた。なんだかんだ言っても、魔界を不景気にしたのは我々天界であるのは間違いないのだから、辛く当たるのは間違っていると考えたからだ。


ギュエールが早足で歩いていると、キッチンの入口の前で立ち尽くしているセインが見えた。


「セイン、どうしたの?」

「ああギュエールか…いや、デスタに追い出されてな」

「デスタに?」

「いや…なんというか、凄いぞこれは…」


不思議に思ったギュエールは、ちらりとキッチンを覗いた。そこにあったのは、一面きらきらと光るキッチンだったのだ。は、と床を見ると雑巾と箒を持ったデスタが誇らしげに辺りを見渡している。

ギュエールは驚きを隠せず、口をぽかんと開けてしまった。


「…え?」

「おー、牛の女神!キッチンきれいにしといたぜ」

「牛…!?いえ、デスタ…これは?」

「最初は床だけやったんだけどよ、よく見たら結構上のほうも汚れてたから掃除しといたぜぇ!」

「でも貴方…これ、綺麗…過ぎるわ」

「だろ、得意なんだよ掃除」


デスタの掃除は、得意というレベルを越えていた。ホコリひとつないキッチンを見渡して、ギュエールはゆっくりデスタに近付く。


「デスタ…さっきはごめんなさい…貴方にこんな才能があるなんて…」

「別にいい、卵割ったのは俺だしなぁ…今の魔界だったら有り得ないぜ、食べ物一つでどれだけ魔界の民が助かるか…」

「…ふふっ、変わってるのね」

「あ?」

「なんだか可愛いわ」

「なっ、ギュエール!?」

「セインは黙ってなさい」


ギュエールはにこにこと笑いながらデスタに近付いた。そして手に持った服を渡すと、また微笑み「決定ね」と呟いた。


「貴方、家政婦になるといいわ」

「火星腐?」

「お家のことを掃除したり料理…いえ、料理以外で助けてくれる人のことよ」

「へぇ、わからねぇがまぁいいや、それで」


「じゃあ、その服に着替えて、今日から宮殿内の掃除、お願いね?」


「ああ!」



セインは、その様子を見て嫌な予感がした。今までずっとギュエールと一緒にいたが、ギュエールは結構な欲しがりなのだ。セインが神から貰った人形を、ギュエールが昔欲しがったことがある。セインは拒否したが、彼女はあらゆる手を使ってセインからその人形を奪った。

そのようなことが、過去に何回もある。

もし、デスタがギュエールに気に入られたら、そんな不安がセインの脳内を走った。






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