私は、由紀の過去に捕われすぎていたんだと思う。それに鍵をかけて、自分を外に出さないようにしていた。私と共にいたら傷付いてしまうから、距離を取った。
でも、あの場で助けてもらいたかったのは、由紀だけじゃない。私だって、助けてもらいたかった。
助けて、ほしかった。
そんな鍵を開けて、私を受け入れてくれる人物を私はずっと探していたのかもしれない。私を理解してくれる人。
南雲晴矢を
「ねぇ、基山くん」
「なに?」
「どうして風介くんが人喰い鹿って呼ばれてるか解る?」
「わからない…かな」
「なら、見ておいた方がいいよ、今から彼、戻るから」
「戻る?」
「きっと、風介くんは自分の力に制限をかけてたんじゃないかな、僕が彼の拳を止めたとき、彼の拳にはブレーキがかかってたから」
きっと晴矢のおかげで何かが晴れたんだね。風介くんの気迫、変わったから。
「風介くんの攻撃は、接近、固定、蹴りの三段階になっているんだ」
昔、近くで見ていたから解るよ、と照美が言うと、自分たちより離れた場所で立っていた涼野が橋本目掛けて走り出した。
「あ…!」
「因みに、鹿の攻撃方法は噛む、叩く、突く、突進、これを風介くんの攻撃に当て嵌めると、接近(突進)固定(噛む)蹴る(叩く、又は突く)と共通する点が多いんだ」
勢いよく橋本に近付いた涼野は、晴矢が掴んでいた腕を蹴り上げ、持っていたナイフを弾き飛ばす。
「接近」
そして次に、勢いよく橋本の肩を服ごと掴むと、足を引っ掻け橋本のバランスを崩した
「固定」
そうすると涼野は一回転し、軸足を強く踏み込むと、橋本の腹目掛けて人蹴り突き、腹で一度膝をバネを縮めるように曲げ、その反発する力を使って橋本を吹き飛ばした。
「そして、蹴り」
人を喰らうが如く攻撃してくる鹿のようだ、と誰かが言った。
「そして、今の蹴りこそ、昔僕を倒した技で…」
「北の衝撃、ノーザンインパクトだ」
「風介くん」
照美が解説を終えたところで、晴矢を抱えた涼野がこちらに向かってきた。
「悪いがタオルか絆創膏を、晴矢の頬にきz」
「はっ、晴矢ぁああああ!?」
「へ、平気、平気…」
晴矢はそうして笑うのだった。