「晴矢!何してるんだ!」
橋本があの時に右手を負傷していたなんて知らなかった。晴矢が目覚めるなんて思わなかった、だってあの時由紀は目覚めなかったから、
それに一番予想外なのは、晴矢自身が橋本の腕を取り、傷付いていない逆の頬に同じ様な亀裂の傷を入れたこと。
「へへ…片方だけじゃ格好悪いだろ…?」
「だからって」
「涼野、」
橋本は完全に混乱していた。掴まれた腕を振るうこともなく、ただじっとしている。それを知っているからか、晴矢は静かに口を動かす。
この雰囲気はあの時に似てる。亜風炉と基山、士郎と私、そして晴矢が初めて対面した、私が晴矢を突き飛ばした時。君が私が一番欲しかった言葉をくれた時。
「涼野、俺は顔にいくつ傷が付いたって平気だぜ…逆にカッコイイだろって、笑ってやるさ」
「……」
「笑ってやるから…涼野、もう過去に捕われるなよ」
「は、るや」
そしてまた、君は私が欲しかった言葉をくれるのだ。
「ありがとう」
君のその笑顔は、いつの間にか私を楽にした。