「なにやってるの!風介くん!」
数人といっても、僕からしてみれば5人。金属バット持ってるのもいるし、そろそろきついのに、威勢良くボスに飛び込んで行った人喰い鹿は立ち止まりただの鹿になっていた。
「もう…!」
そうしていて、飛び掛かってくる不良の腹にくるりと一回り分の力を篭めて蹴りを一発。その場に倒れた事を確認すると直ぐさま死角を埋めるために振り返る。
そんな時だ、倒れた不良が僕の足を掴んで来た。
「きゃあ…!」
そのままコンクリートに尻を打ち付け、なんとか体制をあげようとしたが、既に4人の不良は僕を取り囲むように立ち塞がった。
(しまった…しくじった…!)
「おいお前、男のくせに髪なげぇなぁ」
「おいおい、今それ言うか?」
「なんかよ、今から殴るって思っても綺麗だよな」
「あー、それって」
ぐちゃぐちゃにしたくなるってことか?
(最、悪…)
蹴りがきたから腕を前に出してガードするが、髪を引っ張られて、背中を蹴られる。安いゴム質の靴底が痛い。
「おま…っ!」
がつりと頭を蹴られた瞬間に鼻から血が出たのが分かった。
その瞬間、僕の横を何かが通って目の前にいた不良が数メートル先に積み上げられた段ボールの山にまで飛んでいくのが見えた。
どんがらがしゃん
僕の横にあるのは足。
見慣れた制服を通した足だ。
「基山…くん」
「こら、君たち」
基山くんが立っていた。
倉庫の光が反射して顔がよく見れないが、声は自棄に落ち着いている。
「照美に手を出すなよ、黙ってやられてればいいのに」
“手が使えないなら、足を使えばいいじゃない”
昔僕が言った言葉。潔癖症の彼は物に触れることを拒んだので、よく喧嘩負けをしていたから、せめてと思い僕がアドバイスした。
それから彼は厚底の靴に買い替え、足で攻撃をするようになった。
基山くんは元々体が軟らかいからかなり足が上がる。ジャンプ力もあったし(ハードルや棒高跳びなんて、彼がいつも一番だ)、言わば彼の足は最強の武器になったのだ。
「照美、立てる?」
「うん…」
「戦れる?」
「勿論」
僕が立ち上がった時だ。
風介くんの方でまた何か動きがあった。
あの橋本の腕を晴矢が掴んでいたのが見えた。