風介の声が聞こえる。
俺を呼んでくれる、風介の声が…晴矢、晴矢って出会ったときみたいに、名前を呼んでくれてる。
「うれ…しい」
ぱちりと音がする。
フィナーレ
過去に私を襲った奴らは、ナイフさえ持っていたが、由紀を傷付ける気は全くなかった。殴るや蹴るの暴力はあったが、切り付けるという犯罪行為をする気にはなれなかったのだろう。
由紀が傷付いたのは、私の行為が犯人を追い詰めたから。橋本もきっと同じだ、と頭が叫んでいる。私をこてんぱんにしたいだけ。その証拠は明らかだった。
晴矢の服は、何一つ乱れていない。釦一つも外されてもいなかった。橋本は晴矢に手を出していない。
「亜風炉」
「なにさ」
「私は、晴矢を助ける」
「…分かったよ、ああムカつく、晴矢を頼んだ」
「―…うん」
じゃり、と砂まみれのコンクリートを蹴りあげる。橋本の所へ走り出した私を止めようとした不良は亜風炉が蹴り飛ばした。
完全にナイフを下ろしている橋本は焦ったのか直ぐに手をあげる。フラッシュバックする過去を振り払う、冷静に、ナイフが晴矢じゃなく私に向くようにする。
「ふざけるなよ…、涼野っ」
「なにが…―!?」
突き進む足を止める。一時停止、いや停止。砂まみれのコンクリートにぴしゃりと液体が落ちる。赤い。
驚いて顔をあげると、晴矢の目元から頬を伝った亀裂のような赤い筋。橋本のナイフはうすらと潤っている。
「次馬鹿な真似してみろ、今度はこんな薄い傷じゃすまねぇ」
「…へぇ、君は切り付ける度胸があるんだね」
「冷静だな」
「全然、体が震えて動かないよ」
「ほぉ」
後ろから亜風炉の声がする、なにやってるの、て、見れば解るじゃない。
そう考えてる間にも、コンクリートには赤い水溜まりが出来ていく、恐怖感が大きくて体が動かなくなっていた。橋本が足を動かす、だらりと晴矢の手が揺れる。
揺れて
がしりと。
晴矢の手が橋本の腕を掴んだ。