呼び出された場所は町外れの倉庫だった。確か少し前に不良共が起こした火事のせいで半分焼けて、立入が禁止になっている。

(冷静になれ…涼野風介…冷静になれ)


これは全く由紀の時と同じだった。あの時の犯人は数人だったが、今回は橋本本人だけだろう。いや、絶対にそうだ。アツヤといい、晴矢といい、糞ロリコンめ…(今のは士郎には内緒だ)

あの時の私は冷静を忘れて、由紀に傷を負わせた。時間は刻一刻と過ぎていく。だが冷静を失っては晴矢は由紀の二の舞になってしまう。片手に持った携帯電話を意味なく見詰める。

晴矢の声、苦痛に耐えていた声。今でも晴矢は苦しんでいる、悩んでいる時間なんてないのに。

そんな時。

「あれ、風介くん?」

「お前は…」

私の目の前に立っていたのは赤髪、基山ヒロトだった。私の姿を見て驚いたそぶりを見せたが、直ぐに落ち着きを取り戻していた。(両手にはゴム手袋の上から軍手という可笑しな格好だ)


「どうしてここに?晴矢と出掛けてたんじゃないの?」

「……」

「…風介、くん?」



私が過去に助かったのは、警察に通報した由紀の母のおかげ。決して私のおかげではない。

きっと、人質になった晴矢を私一人で助けるのは無理だ。照美には、あれだけ大口を叩いておいて情けない。本当に情けない。

でも、


「晴矢が、誘拐された」

「な、なんだって!?」

「犯人はうちの学校の不良だ、私が少し前に倒したな」

「……」

「私のせいで晴矢は捕まった…、責任は私にある、だが私一人じゃ無理なんだ…」

「風介くん」

「なに、っ!?」


俯いていた顔を上げた瞬間に顔を基山に蹴られた。右頬をブーツでだ。低いヒール部分が刺さって痛い。


「がはっ…!」

「今ので、責めるのは辞めてあげる、訳あって俺は人に触れない、照美を呼ぼう」

「照美なら―」

「僕なら、いるけど」

「照美!…って、照美どうしたのその目!真っ赤だよ!?」

「なんでもない…基山くん、晴矢が誘拐って本当?」

「俺は…風介くんに聞いて」

「……」


私の後ろに立っている照美は無言で私を見詰めた。先程の憎しみが篭った瞳ではなく、さぁ頼れ、さぁ語れ、という救いを篭めた瞳だ。

一方基山は照美を黙って見詰めたあとに、風介くん、と声を出し、私の意識を呼び戻した。


「…本当だ、前に私が恨みを買ってしまった相手だ、すまない亜風炉、私は」

「謝罪なんていらないよ、もう基山くんが一発入れちゃったみたいだし…それに、晴矢を一人で帰らせた僕にも責任あるんだし」

「一発というか、一蹴りね」

「とにかく、場所教えて、時間はないんでしょ、守るんでしょ、時間無駄にしないで、走るよ!」

「ちょ、照美、俺無視?」



過去の私の隣には、何もなかった。一人で突っ走り、一人で失敗して由紀を傷付けた。だが、今の私の隣には同士がいる。私の大切に想う人を一緒に守ろうとしてくれる人物がいる。

いつか士郎が言っていたかもしれない。

私も、早く好きな人を見付けろと。

好きというのは人それぞれなんではないだろうか。ラブじゃなくてライク。好きという言葉には種類があって、意味がある。


(私は士郎が好きだ)
(亜風炉も、基山も多分好きだ)


(でも)


(私はきっと何より、晴矢が好きだ)



足が向かうのは町外れの倉庫。





 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -