今まで、疑問に思ったことはあった。由紀について知っていたことは勿論デートのときだって。


“南雲晴矢は超能力者、特に透視能力に優れた人間だ、一目見れば相手がどんな人生だったか、どんなことを考えているのか解る、君だってあっただろう?話してもいないのに、晴矢に何か知られていたこと。それが晴矢の能力さ、一目惚れなんて真っ赤な嘘。晴矢は見た目なんて見ていない、人の中身を見て惚れるんだ。晴矢は、君のことを見た瞬間に、君を全て理解していたんだよ”





風介、違う、俺の一目惚れは薄っぺらくはない、ちゃんと風介のこと解ってるんだ!


“解ってる”?笑わせるな!会って一日の奴に私の何が解るんだい?




(私は、なんてことを…!)


照美から南雲の自宅は教えてもらった。後はただそこに向かって走るだけだ、晴矢に謝らなければ、伝えなければ、君は間違っていなかったと。私の口から伝えなければ。


あと少しで南雲の家に着くというところで、聞き慣れた声優の着ボイスが耳に入った。電話だ。

(…なんだ…これは)

携帯のディスプレイに映し出されたのは南雲晴矢の文字。だが何かが可笑しい。私の額に冷汗が流れるのが解る。

この感じは、一緒だ、あの時と、何かが一緒だった。


過去は、私をどこまで縛り付けるのか?




通話ボタンを押した途端に流れて来たのは確かに晴矢の声だった。だがそれはいつもと違う、


『あぁあああああ!』


――悲鳴。



「晴矢っ!?」

『あ、出た出た風介くーん』

「その声…」

『もしもし橋本先輩だよぉ風介くん、久しぶり、ごめんなぁいきなり悲鳴なんか聞かせちゃってよぉ』

「お前、晴矢に何をした!」

『別にぃ?ただ少し遊んでるだけさ、なぁ晴矢くん?』

『ばっ…ふ――んな!離せ…!っあ――だぁ!』


「晴矢、晴矢!」

電話の向こうで聞こえるのは確かに晴矢の声だ。苦痛に耐えているように聞こえるが、受話器から離れていて良く聞こえない。


『お前の知り合いから、お前の過去聞いちまってさぁ、悲しいよなぁ、彼女人質に取られたらよ』

「橋本、貴様…っ」

『だけど安心しろよ、悪いようにはしねぇし、まぁ人質ってのは一緒かな、今から言う所に来いよ、なぁに緊張すんなよ、状況は二年前と一緒さ、ただ、』


“人質を苦しめるのが、暴力から快楽に変わるだけだ”


「きっ…さまぁ…!!」


がちりと歯を食いしばる音が自分でも聞こえた。今の私の顔は今までにないくらいに怒りで歪んでいるだろう。携帯を潰してしまいそうな勢いで掴み直す。耳元では引っ切り無しな途切れ途切れな晴矢の声。頭が可笑しくなりそうだ。


『俺、肌白い奴好きなんだよなぁ、アツヤも白かったけど、こいつもなかなか』

『や―――ひっ――が』

『…なぁ、風介くん』






逃げられるなんて思わないこと





 

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