「亜風炉照美…何故お前が此処に」

「…それはこっちが聞きたいよ風介くん、いや人喰い鹿さん」

「……」

「ねぇ、君晴矢に何をしたの」

「…前にも似たような質問をされたな」

「ああそうだね!君は晴矢を傷付けてばかりだ!」


照美は勢い良く立ち上がると、目の前にいる涼野に怒鳴り付けた。憎しみと悔しさが篭った瞳が涼野を貫く。だが涼野は驚きもしないで、そうだね、と呟いただけだった。

「確かに私は、南雲を傷付けてばかりだ」

「………」

「でも傷付けたなら、その分何かをしないといけない」

「何か?一体何を」

「分からない」


そう呟いたとき、初めて涼野の瞳に動揺が現れた。照美はぐっと唇を噛み締めて、涼野の話を聞いている。


「正直、私は南雲をどうしたいのか分からない、傷付けたいわけではないのに、突き放してしまう」

「…何だいそれ、全く意味が分からない!」

「そうだ、意味が分からないんだ、私だってそうだ」


涼野は冷静に、かつはっきりと言い張った。照美は一瞬驚きはしたがまたきっと涼野を睨んで拳を握る。

「君より、僕の方が晴矢を理解しているのに」

「…そうだろうな」

「なんで、君なんだい?僕じゃなくて…君なんだい?」

「……」

「悔しいじゃないか!君は訳が解らずに晴矢を傷付けて!本当に好きな僕は晴矢に振り向いてすらもらえない!僕には晴矢しかいないのに…っ!なんで…君なんだ…!」


がくりと地面に膝を着いた照美はとうとう泣き出した。大粒の涙が灰色の地面に落ちて黒い染みを作っていく。涼野はただ黙って照美を見ているだけだったが、少したつと照美に近付き小さな声で呟いた。


「…私は、南雲のことをもっと知りたい」

「!」

「何も知らずに、彼を傷付けるのは…自分でも狡いと思う、考えて見れば、私は南雲の学校すら知らない…共通点なんて漫画やゲームだけだ」

「僕に…教えろと?」

「…教えて、ほしいんだ…私はもう、南雲を…晴矢を突き放したくはないから」


涼野の一言に照美の目が大きく見開かれた。瞬きするたびに落ちていく涙は気にならない。ただその瞳に映る涼野風介という存在を、照美はただただ見ていた。

こいつは今知りたいと言った。僕に向かって、知りたいと言った。


「亜風炉照美、…頼む教えてくれ」


涼野が頭を下げた瞬間に照美の中で何かが崩れた気がした。悔しい。悔しい悔しい悔しい、晴矢を取られたくない、嫌だ取られたくない、でも僕は、


(晴矢に幸せになってほしい、笑ってほしい…!)


照美は涙一つ掌に落とすと、涼野と向き合った。綺麗で美しい顔は涙でぐしゃぐしゃだが、涼野は照美が初めて大きいと感じる。


「晴矢を、幸せにできるのは僕じゃない」

「…亜風炉」

「僕が今から話すのは、君の為じゃない、晴矢の為だ」

「………」

「この事を、僕たち以外の誰かに言い触らしたら僕は君を許さない」

「…わかった」


「本当に悔しいよ、なんで君なんだ……畜生」


「よく聞いて、言い直しは聞かないよ、分かったね、さぁ良く聞くんだ、いいかい、南雲晴矢、彼は超能力者だ」



噛み合った真実2





 

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