あのあと私は士郎に送られて家に帰った。そして時刻を見ようと携帯を開くと画面は真っ暗。その時ようやく電源を入れる動作を私は行った。
「…南雲からの着信はなし…か」
あれから一時間はたっていたが、南雲からの着信は一度もなかった。静まり返った携帯を見て一息着いた瞬間に、“お兄ちゃん電話だよ!”と聞き慣れた声優の着ボイスが流れた。
「…」
着信:南雲晴矢
出ないで電源を切ってやろうかと思ったが、突き飛ばしたことの後味の悪さ、そして士郎に話を聞いてもらったおかげで戻ってきた冷静さで、その動作を止め、一度出てみることにした。
一つのボタンをおして、耳元に携帯を置く。
「もしもし」
『え、ふう、…涼野…出てくれた』
「………かけてきたのはそっちだろう?」
『そうだよな…悪い』
南雲は、私を名前で呼ぶことを辞めていた。代わりに名字で呼ばれたことに、私の頭の中で何かの亀裂が走ったような気がした。
「一体、何のようだ」
『…なぁ涼野、なんか一日だったけどさ、迷惑かけて…ごめんな』
「え…」
『あのさ…涼野、ごめんなさい、でも、な…一つだけお願いしてもいいかな』
「お願い?」
『ああ、俺、涼野のこと忘れる…忘れるから、明日、一日だけ俺とデートしてくれないかな』
「デ、デート?」
『うん、これで俺は涼野のこと忘れるし、もう纏わり付かない!嫌なら嫌でもいい…でも最後だけ…最後だけでいいから…』
震える声が聞こえた。
最後、これで南雲と会うのも最後になる。このデートに行けば、南雲との関係は切れ、また他人に戻る。
『ふ…涼野、嫌?嫌ならいい―…』
「いいよ」
『い?』
「明日で、最後にしよう」
でも何故か悲しくて