「これが、私の全て」
「……」
士郎は何も言えなくなっていた。今までふざけたように美少女だの恋愛ゲームだのと語っていたオタクはどこに居よう。自分の目の前にいるのは、辛い過去を背負った一人の青年だった。
「無理して何か言わなくてもいいさ」
「風介…くん」
「あの時の私は、由紀に甘えてたんだ…顔の傷は大丈夫だって、平気だよって言ってもらえると思ってた」
「でも、由紀は言ってくれなかった、代わりに吐かれたのは強い拒絶の言葉、…当たり前だよね、私だって一生残る傷なんか付けられたら…もう…たまらないよ」
ぐったりとうなだれた風介を見て、士郎は悲しくなった。“自分が風介の辛い過去を蘇らせてしまった”という事実に、聞く前までにあった気力は全て持って行かれてしまったのだ。
「ふうす」
「ありがとう」
「…え?」
「今まで、こうやって聞いてくれる人なんていなかった…士郎、君だけだよ…聞いてくれたのは」
クラスメイトも、先生も、みんな私を避けるように振る舞った、私の悩みを聞こうとするのは、知りたがり屋の奴らだけ。
たった君だけが
「ありがとう…っ士郎…!」
私を心配してくれた。
そう言った風介は大きな声で泣き始めた。わんわんと、子供のように。あの時謝ることしか出来なかった自分の分まで、風介は今泣き始めた。
ふう…すけ
大丈夫だ…、俺は平気だから
(だけどどうして、どうして南雲は私が欲しかった言葉を知っていたんだろう、どうして彼は)
噛み合った真実1