次の日、風介が由紀に会いに病院に行くと、由紀にいつもの笑顔はなく、代わりに顔には可笑しな仮面がついていた。
「由紀…その仮面」
「…涼野くん、ごめんなさい」
「え」
「私、もう涼野くんと一緒にいられない」
風介は思わぬ拒絶の言葉に頭が悲鳴をあげるのがわかった。どうして、と問い詰めることも出来ず、仮面に隠した素顔と、小さく揺れる肩を見ていられなかった。
しばらくすると由紀の母親が部屋に入って来た。風介を見た瞬間に目付きが変わり、腕を掴まれていて部屋から出される。
「貴方、なんてことをしてくれたの!」
「……」
「あの時貴方があの高校生に殴り掛からなければ、由紀の顔に傷なんて付かなかった…あの子は一生あの傷と共に生きていかなければいけないのよ…!?」
「…ごめんな…さい」
「どうしてよ!由紀が何をしたというの!?」
「ごめんなさい…」
「貴方のせいよ!もう、二度と由紀に近付かないで!」
ごめんなさい、ごめんなさいと風介は泣きながら謝り続けた。
その数日後、風介は親に頼み込み、中学校を転校。そしてその夏から春までの半年間、学校へ行かずに登校拒否をした。
元から成績のよかった風介は、登校拒否がありながらも偏差値が一番低い某宗教男子校に入学することができた。
そして涼野風介は、その一件から自分についた力を使わなくなった。
これが、人喰い鹿消失の事実である。