由紀の帰りが遅いことを心配した母親が警察に連絡していた。
その警察が風介たちのところに来たのは、風介に十六発目の蹴りが入った時のことだ。
その時風介は既に虫の息であり、意識も朦朧としていた。
「何をしている、早く彼女を離しなさい!」
警察の声が聞こえる。
サイドにいた二人の高校生は警察に抑えられて風介の視界には映らなかった。風介の視界に入るのは、由紀とナイフを持った高校生のみ。風介は最後の力を振り絞り立ち上がるとその高校生目掛けて走り出した。
風介のいきなりの行動に警察も驚き、咄嗟に押さえ付けようとしたが、その手が触れる前に、風介は高校生に殴り掛かっていた。
そんな時だ
パニックになった高校生が、持っていたナイフで由紀の頬を切り付けたのは。
飛び散る赤と、母親の悲鳴。
涼野風介というまだ幼い中学生は、自分の行動の先に何があるかなんて解りもしなかったのである。