某中学校。
そこには涼野風介と栗尾根由紀という恋人がいた。涼野風介は言わずと知れたオタク、また栗尾根由紀は漫画研究会の一人だった。
この二人が知り合い、付き合うことは誰もが予想できた。そうして二人は皆の予想通り恋人になったのである。
恋人になって一年、中学三年の夏、涼野風介はとあるゲーム大会で優勝した。そんな時だ
「涼野くん、涼野くん」
「なんだ由紀」
「涼野くん気をつけてね!なんだか最近オタク狩りがまあ流行り出したみたいで…」
「な…」
この由紀の一言がきっかけで涼野風介は護身術を身につけることになり、後の人喰い鹿の伝説のはじまりとなる。
そして同時に由紀は嬉しかった。
自分の恋人が強くて格好良い、漫画のような少年になったのだから。だから彼女はこう言ったのだ、
「戦ってるときの涼野くん、格好良い」
その一言は風介をとても喜ばせた。たとえオタクな風介といえど、恋人に褒められるのは嬉しかったのだ。
それから風介は道場敗りを何回も行った、時にはインターハイ出場を決めていた高校生も倒した、中学三年で慎重が170以上あった風介にしてみれば、それらは軽く見られたのだ。
そして、風介は勝っていくたびに、負けた者達の恨みを背負っていくことになる。
だが風介はそれに気付かなかった、ただ由紀に褒められるのが嬉しくて、笑顔で凄いと言ってもらえるのか嬉しくて、風介は何度も何度も相手を倒し続けたのだ。
だが背負った恨みは勝つたびに大きくなる。風船のように、膨らんで割れてしまいそうになるまで。
“風介くんの携帯ですか?こちら由紀ちゃんの携帯です、今日の夕方6時、東野公園に来いよ、意味解るよな?調子に乗るのもいい加減にしろよ、餓鬼”
そうして、膨れ上がった風船は割れたのだ。