そうだ
全てまた記憶の彼方に放り出してしまおう。


風介くんと帰り始めて早10分。風介くんは普通に話しているけど、何だかぎくしゃくしている。なんだかこれじゃあ待受のことを聞きづらいじゃないか。

そんな時だ


「風介!」


力強く親友を呼ぶ声がした。そうだ昨日何度も聞いた。


「南雲…」
「南雲くん!?」


「風介、お願いだ…俺の話聞いてくれ!」

「…っ、まだ諦めていなかったのか、とうとう待ち伏せとは、完璧なストーカーだな!」


風介くんは南雲くんと距離を取りながら叫びかける。幸い人通りも少ない道で、昨日のように目立つことはなかった(きっと南雲くんもそれを考えてここで待っていたんだ)


「風介、違う、俺の一目惚れは薄っぺらくはない、ちゃんと風介のこと解ってるんだ!」

「“解ってる”?笑わせるな!会って一日の奴に私の何が解るんだい?」

「違う…だから俺は!」

「いい加減にしろ!私に近付くな!」


「あ、駄目だ風介く…!」


どすんと痛々しい音がした。

それは風介くんが南雲くんを突き飛ばした音だ。南雲くんは目をぱちくりと動かすと、じわじわと涙を溜め始めた。

「やり過ぎだよ風介くん!」

「……」

「大丈夫、南雲くん?」


僕が怒鳴り付けても風介くんは無言のまま南雲くんを睨み付けるだけだった。

駆け寄って、倒れた体を支えてあげる。そうすると弱々しく立ち上がった南雲くんの唇が小さく動くのが見えた。


「違う…俺は知ってる…」

「勝手に調べて?そんなことで得た知識が正しいと?そんなの、気持ち悪いだけなんだけだ」

「風介くん!」

「黙っていろ士郎…、ほら南雲、言ってみなよ…何を知っているというんだい?」


風介くんが冷たく南雲くんに話し掛けた時には、既に南雲くんは力無くぺたりと地面に膝をついていた。ふるふると震えてなんとも可哀相な姿だが、南雲くんの瞳はきっと風介くんを捕らえている。

「……は、」

「…なに?」

「俺は…風介が人喰い鹿だってことを知ってる」

「それは最近流れ出したから、知ってる人は知って―…」


「そしてっ、」

「その名前のせいで、深く傷付いた人のことも、俺は知ってるっ!!」


その言葉が出た瞬間に風介くんの目が大きく見開かれた。心なしか握っている拳も震えていて、がちがちと歯がなる唇をやっと開けたかと思ったら、


「お前、まさか由紀のことを…っ!!」

「え…」


そこには、今まで見たこともないくらいに怒った表情をした風介くんがいて


“由紀”
風介くんの口から漏れた女性の名前。そうだ、きっと待受画面の彼女の名前、

そう僕が理解したときには、風介くんは南雲くんに殴り掛かっていた。


「風介くん、やめて!!」



少しずつ曝される親友の素顔



 

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