「うぅ…風介くんどこ」
人込みをなんとか掻き分け、前へ前へと進んでいく。だけれど目的の風介くんはまったく見付からず、気付けば出入口からかなり離れてしまった。
「もう…こうなったら自棄だ」
苛立ちと焦りからだろうか、僕はその場から無理やり脱出を試みた。所謂人を押し退ける、大阪のおばちゃんみたいなこと。
ばっと手を横に広げたその時。
「わ!」
がしゃん!
僕の手が勢いよく誰かにぶつかり、その人が持っていた群青色の袋が床にたたき付けられ、袋の中から嫌な音がした。
「えっ…」
「ああー!?俺のゲーム!」
「えぇ!?すみません、すみません!」
とりあえず来て、とぶつかった人に連れられて店の中でも人通りの少ないペースに連れて来られた。
その人は袋からゲームを取り出し確認している。
(あ、あれ風介くんが買ってた初回盤のゲームだ…!)
商品破損、弁償、そんな言葉が頭の中をぐるぐる回った。僕はぶつかった人物に深く頭を下げる。
「あー…あ、いや、いいよ…壊れちまった…なぁ、あーパッケージごと…傷ついてる…」
「本当にすみません!せめてお金だけでも」
「いいよ、初回盤のフィギュアは壊れてねぇし、ゲームは通常盤買うから…」
「そ、そんな「何をしている士郎」
「あ…!」
気付いたら群青色の袋を大量に持った風介くんが後ろに立っていた。
「風介くん…!僕、この人にぶつかっちゃって、ゲーム壊しちゃったんだ…!」
「な ん だ と ?何故外で待っていなかった!?」
「ごめんなさい!」
そう言うと風介くんは、被害者の彼に向かって歩き出した。なんだか僕の責任者みたいだ。
「連れが、申し訳ない」
「え…っ、あ…いや」
「せめて詫びをしたい、時間はあるか?」
「あ、あぁ…」
(風介くんって、オタク同士だと積極的だな…)
被害者の彼は戸惑ったような声を出して、ちらちらと風介くんを見ていた。何だろうか、緊張でもしているのかな?
「私は涼野風介、彼は吹雪士郎…君は?」
「あ、俺は南雲、南雲晴矢だ」
この時、南雲くんの視線は風介くんで、顔は赤く染まっていたことを、僕は知らない。