「アツヤ!」

ばたん、と俺の自室の扉を開けて入って来たのはボロボロの兄貴だった。

犯人は解ってる、あの恐ろしい先輩だ。


「兄ちゃん…!」


ボロボロなのに必死で俺の方へ走ってくる。俺はがたがたと震えてしまって足が上手く動かなかった。兄ちゃん、兄ちゃん、兄ちゃん!

がばりと俺に抱き着いてきた兄ちゃんは酷く疲れたようだった。


「兄ちゃん…大丈夫?痛くない?ごめん兄ちゃん、俺…俺のせい」

「違うよアツヤ」


俺のせいだ、と言い切る前に兄ちゃんに塞がれた。何だろう兄ちゃんの声が震えている。


「僕が優柔不断だったからなんだ」

「え…兄ちゃん?」

「ごめんねアツヤ、アツヤは僕を守ろうとしてくれたのに、僕ボロボロにされちゃった、やっぱりモヤシだね」

「……っ」

「これからは僕が守るから」

背中越しの兄ちゃんの手に力が込められた。自然に兄ちゃんの肩に額がぶっかって、兄ちゃんにくっつく形になる。


「兄ちゃん、違う違う、兄ちゃんは」

「うん」

「兄ちゃんは強くて、格好良くて、優しくて、それから」

「うん」

「俺は、兄ちゃんが…!」

「アツヤ」

「え?」


その瞬間に、ふわりと唇に何かが触れた気がした。でも目の前には兄ちゃんしか居なくて、でも唇はあったかくて。

あれ、これ


「キス…」

「ご、ごめんアツヤ!(やっぱり我慢できなかった…)」


「……」


兄ちゃんと、キスしてしまった。先輩に触られた時に、怖くて怖くてたまらなかった俺、でも兄ちゃんに触れた瞬間に安心して、ああ兄ちゃんがいてよかったって思った。

それで今のキスは
やっぱり安心して

あ、そっか
俺は兄ちゃんが好きなんだなって、再確認できた。

「アツヤ?ごめん嫌だった?ねぇアツヤ!?」

「ううん、大丈夫」

「へ?」

「兄ちゃんなら、大丈夫だからもっかいシて」

「ア、アツヤァア!?」


だから、今度は俺からしてみる。


兄ちゃんは安心してくれるかな。







一段落



 

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