ぱんぱん
風介の掌が音を鳴らし、手に着いた埃を払った。士郎の目の前で倒れているのは橋本だ、しかも既に虫の息。
風介の圧勝であった。
それはそれは華麗な技々で、意識が朦朧としていた士郎ですら見入ってしまうほど。
おおざっぱな橋本の攻撃を舞うようにかわし、無駄のない動きで相手のピンポイントに攻撃を入れる。攻めと守りのバランスが取れた美しい戦い方。これが普段オタクだというのだから驚きだ。
これまでに1分とかからなかった。
「立て、士郎」
「風介…くん」
「ボロボロじゃないか、まったく」
「あ、ごめん…」
「礼なら、君の弟に言うんだな」
「アツヤ…そうだ!アツヤは!?」
がばりと士郎が起き上がるが、ずきりとした脇腹から腹にかけての痛みにまたずるりと床に倒れた。
溜息をこぼした風介は士郎の隣に座り、持っていた鞄からキャラクターの絵柄がついた絆創膏を取り出し、士郎の口元に貼る。
「アツヤは今家だ、橋本の所に来させるのはアツヤにとっても苦痛だからな」
「…あ」
「この手当が終わったら、走れよ」
「…うん」
「そして謝るんだ」
「……うん」
「まったく、何故お前が泣くのだか」
士郎の頬に涙が零れた。