どういうこと?
帰って来て、自室の前まで来たらアツヤの話し声が聞こえた。泣きながら叫んでいたから、思わず中に入ろうとしたら、
「あいつ、断ったら兄貴殴るって…!兄貴昔からモヤシみたいにひょろいから…っ、喧嘩なんて勝てるハズないのに…!」
「さっき、あいつから電話があって、……あ、兄貴に会ったって言ったんだ!俺、どうしたら良いか分かんないよ風介サン…っ」
アツヤの声がした。
自分のせいで、苦しんでいるアツヤの泣き声がした。血の気がさっと引く音もした。ただただその場に立ち尽くすことしか出来なくて、ドアノブを掴んでいた手はカタカタと震えている。
確かに触られたり、驚いたことがあったのかもしれないけど、直ぐに仕返ししたりするのがアツヤだ、なんで、どうして、アツヤは何で断らないの?
なんて僕は馬鹿なんだ。アツヤは断らなかったんじゃない、断れなかったんだ。僕自らがアツヤの足枷となって、アツヤを泣かせる形になってしまった。
ああ、僕は。
どすん、と鞄が手から落ち、たんたんと大きな音を立てて階段を下りて玄関へ走った。
向かうは学校。
がむしゃらに走る一人の僕。