学校からの帰り道、丸井先輩と2人で歩いていると丸井先輩に、私から甘い匂いがすると言われた。

「そうですか?」
「おう」
私は記憶を辿る。甘い匂いのするもの…。あ。
「今朝、学校に行ったときに、友達に香水をもらいました」
つけてみてよ、と言われたからつけてみた。少しだけだったから、そんなに匂いはしないと思うんだけど…。
「それで?」
「?」
「1日中こんな甘ったるい匂いだったのか」
そんなに甘い匂いだっけ。
私が首をかしげると、丸井先輩は眉間に皺を寄せる。
え、どうして。

「お前じゃないみたいで、なんか、むかつく」
丸井先輩は私の髪を一掬いとって、口づけた。

「お前の全部は俺のものなのに」

そして髪から手を離し、私の頬に手を伸ばす。

「俺以外の前で、違うお前を見せた」

いつも切原くんをからかっている丸井先輩はどこにいったの?

「俺以外の前で、そんな顔すんなよ」
「え、私…今どんな顔してますか」
「真っ赤になっててかわいー顔」
丸井先輩は私の頬に口づけて、微笑んだ。
あれ、さっきの丸井先輩はどこにいったの。

「帰ろうぜ」
そう言って、丸井先輩は私の手を握って歩き出した。

「もう、何なんですか」
「ん?」
「さっき、急に」
「ああ、あれ、本気だから」
丸井先輩は握っている手に力を込める。

「なんなら、俺以外見えなくなるようにしてやってもいいんだぜ?」
「…遠慮します」

あなたは知らないでしょう。
私がどれだけあなたに翻弄されているか。
あなたのことをどれだけ好きか。


ピアニシモ症候群
(私はあなたに最も弱い)


(2013.07.16.)



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