私の一つ年上の彼氏は詐欺師で有名だ。そしてその人の彼女である私も被害者の一人。
先輩のことは好きだけど、からかわれると悔しいと思ってしまうのは当然のことで。

「雅治先輩ー!また私のこと騙しましたねー!」
「プリッ」
「もー許しません!絶対です!私怒ってるんですからね!」

ふん!とそっぽを向いてすたすたと雅治先輩から遠ざかる。でも後ろが気になって、ダッシュでその場から逃げてしまった。
追いかけてこなかったのが唯一の救いかも。なんて曲がり角のところで安堵の息を吐くと、後ろで話し声が聞こえた。


―――


「ねー、柳生先輩が呼んでるよ?」
「?はーい」

放課後、今日は部活がオフだー!と嬉々として帰り支度をしていると、クラスメイトが私を呼んだ。ドアのほうをみると、同じ部活の先輩が微笑を浮かべて立っていた。

「いきなりすみません。少し、聞きたいことがありまして……」
「聞きたいこと、ですか?」

どうやら人の多い場所で話す内容ではないらしく、私は荷物をもって中庭に移動した。

「で、聞きたいことって?」
「それが、仁王くんのことなんですけど……最近、仁王くん、私にとある相談をしてくるんです」
>
>ぽつり、と彼の口から零れたのは私の彼氏の名前だった。彼は話を続けた。
>
>「その相談事なのですが、あなたのことなんです」
>「えっ、私の?」
>「はい。何だか最近からかいすぎたようで、あなたに嫌われてるんじゃないかって。それで、私に聞いていてほしいと頼まれたんです」

……ふうん、雅治先輩そんなこと思ってたんだ。なんだなんだ可愛いところもあるじゃないか!なんて、思わず口元がにやける。
私は満面の笑みで、目の前にいる彼にこう告げた。

「別に嫌ってないですよ!というかむしろ好きです、大好きです!確かにからかわれるのは悔しいし、怒ったりもするけど、でも私は大好きですよ。愛してます!ね、『雅治先輩』!」
「え?」
「ばればれですよ雅治先輩!」
「…………ククッ、珍しいのう。お前が俺のペテンを見破るとは。いつから見破っとった?」

喉を鳴らしながら柳生先輩モデルのウィッグを取る彼は、間違いなく雅治先輩だった。


「いつからも何も初めからです!教室に来てから今まで、私一度も『柳生先輩』なんて呼んでませんし!…………それに、いつまでも自分の好きな彼氏のことが分からないなんて、嫌じゃないですか。
私、先輩のこと大好きですもん」

その言葉にまた雅治先輩は目を丸くさせた。そして何かいいたそうに首の後ろをかいて、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
照れ隠し、なんていわなくても分かるような手つきで、私の頭を撫でる手を、私は嫌いじゃない。


―――


なんてね!全部嘘さ!
私は聞いてしまったのだ。角を曲がって安堵の息を吐いたとき、後ろで話す雅治先輩と柳生先輩の会話を。

「のうやぎゅー、放課後ちょっと眼鏡貸してくれんかのう?」
「また貴方は……今度は誰をペテンにかけるつもりなんですか?」
「プリッ、きまっとるじゃろ」

その後に私の名前がでたのは言うまでもない。そこで私は考えたのだ。いつも騙されてばかりじゃ悔しい!ならいっそ、私も騙してやろうじゃんかと!
そして現在に至るのだ。

(ごめんね、雅治先輩)

頭から伝わってくる手の温かさを感じながら、私は心の中でそう呟く。

(でも、こうやって二人でいることができたんだし、それに頭も撫でてもらってるし、私は満足なの。だって私、先輩のこと大好きなんだもん)


嘘吐きたちの午後

「雅治先輩嫌われてると思ったんですか!不安だったんですか!?私なんだか嬉しいです!」
「……うるさいのう」


(2012.09.11.)



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