「ねぇねぇ名前ってば!」
「ナギくん、私仕事があるから、」
「僕が話し掛けてるのに仕事仕事って…」


ぷくっと頬を膨らます姿に思わず抱きすくめたくなったが何とか衝動を押さえ込む。1スタッフのくせにアイドルに抱きついたりした時には…考えるだけで恐ろしい。因みにものすごく親しい感じで話し掛けてくれている帝ナギくんとはまだ出会って二回目である。何故かなつかれてしまったのだ。こんな綺麗な、彫刻みたいな顔してる方に好かれるとか一生の運を使い果たした気がして何だか不安だ。いや嬉しいけど。しかも今大人気の新人アイドルHE★VENSの帝ナギときた!私、ファンの子に殺されないかな…


「名字さーん!これ運んでー!」
「はーい!」


スタッフが忙しく行き来するのが見えるロビーのソファーに不貞腐れた顔をしたナギくんが座っているのを視界の端で確認して急いで仕事に戻った。生放送の歌番組の裏方は皆が思っている以上に忙しいと思う。休む暇なんか無いし緊張の糸が其処ら中に張り詰めていてピリピリしている。
ナギくんと出会ったのもこんな忙しい時だったなあなんて浸っていた自分に気が付いて頭を振り回した。どうして私みたいな平々凡々な女に興味を持ったのか未だに解らんがアイドルだし少し変わってるのかもしれないな。アイドルだしね、うん。


「おわ、ったー!」
「名字ちゃんお疲れさま!」
「あざっす!」
「ところであの帝ナギに言い寄られてるって本当?」


口に含んだコーヒーを吹き出しそうになって飲み込んだのがいけなかったのか盛大に噎せた。「ちょっと大丈夫?その様子じゃ本当なんだ」にたりと効果音がつきそうなくらい悪い顔で笑っている先輩にもう言い返す気力も無くて項垂れた。変な噂が広がってるよ、ナギくーん…って「ナギくんはまだ13歳ですよ?私みたいなおばさんに興味持つと思います?」おちゃらけたように言うとそれもそうねえ…と失礼な声が聞こえたがまぁ誤解が解ければいいや。


「あっ!いたいた!」


なんてバッドなタイミングなんだ帝ナギくん。「あら、王子様は本当だったのね」「意味分からんです先輩席を立とうとしないでください!」「え?お邪魔者は居なくなった方が良いじゃない」ぱしんと払われた手を呆然と見つめていたら頑張ってねと応援された。何でだよ。


「僕の歌聴いてくれた?」
「あ、はい。素敵でした」
「当たり前だよね!だって僕だもん」
「そうですね」


やっぱり可愛いなぁナギくん。女の私より可愛いってどういうこっちゃ。


「僕可愛い?」
「可愛い、ですよ?」
「んー…嬉しいけど、名前にはカッコイイって言って欲しいなあ」


ナギくんとは歳が離れすぎて、可愛い男の子にしかみれません、って言おうとしたが目の前のあまりにも真剣な顔に口を噤んだ。


「僕が、年下だから?見れないの?13歳だからって?」


ソファーの後ろの壁に手を付かれて逃げ場を無くされた私の視線は強制的にナギくんの視線と絡ませられる。空っぽのコーヒー缶が手から滑り落ちた。


「あ、のっ、ナギ くん?」
「後、五年。」
「え?」
「後五年待ってて。指輪持って名前の事、迎えに行くから」


顎を掬われ更に顔を近づけられたらそんなの、頷くしか、ないじゃない。

年下のくせに、こんな色気、狡い。


「狡い…」
「ふふふ、此で名前は僕の物だね」


しょうがないから後五年、待っててあげる。

我が儘な薔薇

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